シールドの中の敵
変身を解いた衛とみちるは“クラウン”に到着した。
シールドは、まだ張られたままだった。
ふたりは自動ドアを潜った。
“クラウン”に遊びに来ていたのだろう。少年たちが至る所に倒れ、気を失っていた。
「一足違いだったよ」
“クラウン”の奥から、聞き慣れた男の声が聞こえてきた。
元基だった。
「一足違い………?」
衛は聞き返した。
「さっきまでうさぎちゃんたちがいたんだけど、連絡の取れないみんなを捜すって言って、美奈子ちゃんとまこちゃん連れて出ていったんだ」
元基は答えた。今の元基の話からすると、少なくてもうさぎと美奈子とまことの三人は、無事でいることが確認できた。
「ここにいたのは、三人だけですか?」
「あとからせつなちゃんが来た。今、地下の司令室にいる。ルナたちとも連絡が取れないって、困ってたよ。何か知らないか?」
「せつなは、ここに来ているの?」
みちるは驚いて、元基に詰め寄る。
美人の顔を間近で見て、元基は少し頬を赤らめた。だが、みちるはそんな元基には気が付かない。
「はるかとは行き違いになったのかしら………。でも、はるかから何の連絡もないっていうのもヘンね………」
みちるは自問してみた。はるかはせつなに会うために、KO大学に向かったはずだった。しかし、せつなが司令室に来ていると言うことは、はるかは大学でせつなには会えていないはずである。
「とにかく下へ行こう。何が起こるか分かるかもしれない。元基さんも下にいた方がいい」
衛は元基を見る。だが、元基は手でそれを制した。
「いや、宇奈月が心配だ。サテンの方へ行こうと思う」
元基が言う。今度は衛がそれを止めた。
「シールドされているとはいえ、外は危険です。宇奈月ちゃんは俺が捜します」
「元基さんは下で、せつなを手伝っていただけないかしら………」
衛とみちるのふたりにそう言われては、元基も承知するしかなかった。
三人は、地下の司令室へと降りた。
入ってきた三人に気付いたセーラープルートは、コンピュータのキーボードを叩いていた手を休めて顔を上げた。
「だれか連絡は取れたか?」
入ってくるなり、衛は訊いた。
「ルナとダイアナがうさぎの家にいたわ。あとは分からない………」
プルートはかぶりを振った。
「プルート、この画面は………?」
いつの間にか横に来ていたみちるが、ディスプレイの見慣れない画面を見て訊いてきた。
背後から、元基も覗き込む。
その元基の視界から胸元を隠すように、プルートは身体を巡らした。
元基にしてみれば毛頭そんな気はないのだが、プルートが覗かれることに恥じらいを感じたのだ。
元基に悟られないように、シートをするりと動かした。
「通信ネットワークの画面です。ここのコンピュータなら、例えシールドで通常空間と遮断されていようが、関係なく外とアクセスできます」
プルートは、衛に説明するように言う。
「ネットワークを使って、敵を探ろうというわけか」
「はい。あらゆるネットワークにアクセスして、映像の出所を探します。あの“顔”が映像である以上、それを送っている者が必ずいるはずです」
プルートは言いながら、シートを元の位置に戻し、キーボードを叩き始めた。
「逆に、こちらの位置を教えてしまうようなことにはならないのか? 逆探知ぐらいは、敵もできるだろう?」
衛が尋ねた。通信ネットワークを駆使して事件を起こす敵である。逆探知に対してのプロテクトは張ってあるだろうし、よしんば侵入された場合の対策も考えているはずである。
「大丈夫です。月のシルバー・ミレニアムのホスト・コンピュータを中継します。地球上では観測できない電波を使いますから、こちらの位置は敵には分かりません」
「そうか、じゃあ、任せた」
衛がブルーとの肩を軽く叩くと、
「よし、俺も手伝おう」
元基が空いている席について、パソコンの電源を入れた。
その元基を横目で見ながら、プルートは衛に話しかける。
「敵を動かすには、シールドを張ったままでは無理です。間もなくシールドを解きます」
「分かった。外は俺たちで何とかしよう」
衛はプルートに肯いて見せると、次にみちる目を向けた。
「はるかが心配だろうが、君も検索を頼む」
「はるかなら、大丈夫よ………」
みちるは軽く微笑む。
「学園のコンピュータを使ってみるわ。あそこのネットワークは特殊だから、新しい情報が掴めるかもしれないわ」
「気をつけてくれ………」
「わたしもルナが到着次第、大学に戻ります。例のS.O.S.が大学に送られてきたこともあるし………」
司令室から出て行こうとする衛とみちるの背中に、プルートが声をかけた。
衛は立ち止まって、了解したという風に、右手を軽く上げて見せた。
その衛に、プルートは付け加えるように言った。
「シールドは十分後に解きます」
「分かった」
衛も今度は、言葉で返事をした。
衛とみちるは再び外へ出た。
人々は、依然として気を失ったままだ。
この状況下では、その方がかえって都合がよかった。
シールドが張ってあるせいか、外は不気味なくらい静かだった。
この空間がシールドされてから、既に三十分は経っている。敵もいいかげん、しびれを切らす頃だろう。そして何よりも、外の通常空間の様子が気になった。
敵は、全世界レベルで通信を送っている。パニックは、世界中で起こっているはずだ。
「気味が悪いくらい静かね………」
みちるは呟いた。
衛から返事が欲しかったわけではない。感じたままを口に出しただけだ。
外のひんやりした空間に出てみて初めて、みちるは先程の一件で、汗でびっしょりと濡れている下着を、早く取り替えたいと思った。
「それじゃ衛さん、あたしは学園に行くわ」
みちるはそう言って、走り出した。
走り去るみちるの姿を見送りながら、衛は、そう言えば彼女が制服で走る姿を、初めて見たなと思った。
ちびうさは、十番中学へ向かって走っていた。
怪音波で気を失ったももちゃんを、可哀相だと思いながらも、校庭に置き去りにしてきてしまったことを、少しばかり後悔していた。九助も一緒にいたから、意識さえとりもどせば、九助がなんとかしてくれるだろうと考えることにした。友達を置き去りに来てしまうということは、とても辛いことだった。
ちびうさは、とにかく仲間と合流したかった。仲間と合流しなければ、この状況は自分だけではどうにもならないし、なにがどうなっているのかも分からない。
ちびうさ自身、気を失っていた時間があったから、どのくらいの間シールドされているのかは判断はできないが、シールドしている仲間がいる以上、何かをやっていることには間違いはなし、少なくとも無事な仲間がいることは推測できる。ちびうさは、それを手伝いたかった。
あの角を曲がれば、正門が見えてくるはずだ。
ちびうさは、走るスピードをアップさせた。
亜美とひとみのふたりは、なるちゃんに続いて校庭に出た。
部活動中だったスポーツ部の部員たちが、大勢倒れている。
(普通に気絶しているのとは、少し違うようね………)
亜美は思った。
校内で気を失っていないのは、おそらく自分たちだけだろう。
普段は騒がしい学校の周りも、今はひっそりとしている。
亜美は最後尾にいた。少しぐらいなら、立ち止まっても気付かれないだろう。
そう考えて、立ち止まった。
足もとに倒れているクラスメートに、そっと手を触れてみた。
(やっぱり、エナジーを奪われているわ………)
亜美は、自分の考えが正しかったことを確認した。
倒れている者はみな、おそらくエナジーを奪われている。一度に大量のエナジーを奪われたことによって、人々は気を失ってしまったようだった。敵の真の目的は、エナジーの収集にあるのかもしれないと、亜美は感じた。
もう少し調べたかったが、ふたりとの間をあまり開けるわけにもいかない。
亜美は立ち上がり、ふたりの後を足早に追った。
海野は正門のところに倒れていた。
右足首を、ひどく痛がっている。
「どお? 亜美ちゃん」
海野の足を診てくれている亜美に、なるちゃんは心配そうに声をかけた。
「捻挫のようだけど………。どちらにしても、ここでは治療できないわ。保険室に行きましょう」
亜美はそう判断した。
なるちゃんと亜美のふたりがかりで、海野に肩を貸した。ひ弱そうに見えても、海野も男である。ふたりかがりでないと、女の子の力では、支えきれない。
(ヒビが入っているかもしれない………)
そう思ったが、口には出さなかった。
海野はなるちゃんを庇って、怪我をしたようだった。なるちゃんが、しきりに気を使っている。
額に脂汗を浮かべているにもかかわらず、海野は笑顔で、
「大丈夫、大丈夫ですよ………」
と、いつものおどけた口調で、なるちゃんに答えている。
「足もとに気をつけてね。そこに、ふたり倒れてるわ」
ひとみが案内役をやってくれているおかげで、バランスを崩さずに歩くことができた。
保険室は校庭からでも直接入ることができるが、それでもまだ距離はかなりあった。
「あ、待って!」
亜美は短く言うと、突然立ち止まった。
辺りを探るように、首を巡らす。
「どうしたの?」
なるちゃんが不思議がって、亜美を見た。
亜美の表情は険しかった。ただならぬことが起きようとしている。
なるちゃんの表情も曇った。
「何かあったの?」
先に立って歩いていたひとみも、立ち止まって振り向いた。
そのひとみの目の前を、黒い影がよぎった。
「え? なに?」
ひとみはキョロキョロと、今自分の前をよぎった影を探した。
「気をつけて、何かいるわ!」
亜美が叫んだ。
何かの気配は感じるのだが、姿が見えない。
「!!」
体中に電気が走ったような気がしたかと思うと、ひとみは気を失っていた。
悲鳴をあげることもできずに、失神してその場に崩れるように倒れた。
「ひとみちゃん!!」
亜美は、なるちゃんと海野のふたりから離れた。安定した視界を確保するためだ。
油断なく、辺りを見回す。
(………いない………。どこ………?)
亜美は焦っていた。敵の姿が確認できない。これでは、対処のしようがない。
変身しさえすれば、ゴーグルで索敵できる。しかし、なるちゃんと海野がいる。ここでは変身できない。
(このままじゃ、みんなやられてしまう………)
例え正体が知れる結果になっても、ここは変身するしかないと決断した。
「マーキュリー・プラネット・パワー………!!」
バシッ………!
亜美が右手を高々と上げ、変身のスペルを言いかけたそのとき、背後で何かが弾ける音が響いた。亜美は首を巡らす。
「ちびムーン………!?」
ちびムーンがロッドを構えている。何かに攻撃したのだ。
「亜美ちゃん!」
ちびムーンが走り寄ってくる。その背後で、黒い影が動いた。
「ちびムーン( 、後ろ!!」)
亜美は大声で叫ぶ。とっさのことだったので、「ちびムーン」のことを「ちびうさ」と呼んでしまったが、亜美本人は気付いたいなかった。
亜美の声で、ちびムーンは即座に反応したが、少し遅かった。黒い影が、目前まで迫ってきている。
シュッ………!!
何かが、黒い影の鼻先を掠めた。
黒い影が一瞬怯んだ。
「ピンクシュガー・ハート・アタッーク!!」
ちびムーンの必殺技が、黒い影を消滅させる。
ちびムーンは顔を上げた。自分を助けてくれた人物には、見当がついていた。
黒いマントを翻して、その人物が視界の中に入ってくる。
「ありがとう、タキシード仮面( 」)
満面に笑みを浮かべて、ちびムーンは言った。
タキシード仮面も笑顔でそれに答えた。
みちるは無限学園のコンピュータ・ルームに入ると、パソコンを起動させた。
はるかと未だ連絡がとれないことが気がかりだったが、はるかにばかり気をとられているわけにもいかなかった。自分には、やらなければならないことがあった。
起動させたパソコンを使って、みちるはまず、司令室のせつなに連絡をとろうとした。
パパッ。
突然画面全体が、白色光を放った。
「なに………!?」
白色光が、みちるを包んだ。
身体が宙に浮いているような感覚が、身体全体で感じ取れた。
何が起こったのか分からない。
敵の罠だ。
そう感じたときには、既に手遅れだった。
身体に力が入らない。
光に包まれたまま、みちるは次第に気が遠くなっていく自分を、全く別の意識として感じていた。
みちると別れた衛は、まずは元基との約束を果たすため、パーラー“クラウン”を目指した。
元基の話では、妹の宇奈月は、今日はパーラー“クラウン”でアルバイトをしているはずだった。
元基と約束したからにはまず、宇奈月を保護しなければならなかった。うさぎやちびうさのことも心配だったが、そうもいかない。
ゲームセンターからパーラーまでは、歩いても五分とはかからなかったが、その距離を、衛は全力で走った。
パーラーの中に入った。
椅子に腰を降ろしたまま、客は全員気を失っていた。
もちろん、従業員も例外ではなかった。
レジの前にひとりと、通路にひとり、アルバイトの女の子が倒れていた。ふたりとも、宇奈月ではない。
女子大生だろうか。ふたりとも、宇奈月より年上に思えた。
奥へ行ってみた。
キッチンに店長らしき男性が倒れている。宇奈月はここにもいない。
衛は最後に、更衣室を覗いた。
いた。
床にうつ伏せになって倒れている。
T・A女学院の制服のままだということは、おそらく、来たばかりのところで事件に遭遇したのだろう。
着替え中でなくてよかったと、衛は頭を掻いた。
ゆっくりと抱き起こし、彼女の肩に自分の掌を乗せる。
気を集中し、パワーを注ぎ込んだ。これで、目が覚めるはずだった。
ほどなく、宇奈月は意識を取り戻した。
更衣室の中にいる衛に、一瞬驚いた宇奈月だったが、すぐに気を失う前のことを思い出した。
「立てるか………?」
衛は宇奈月を、優しく抱き起こした。
「………はい。もう、大丈夫です………」
少々足下がおぼつかなかったが、宇奈月は気丈にもそう答えた。
更衣室から出て店内の様子を見た宇奈月は、その状態に言葉を失った。
「みんな、死んじゃったの?」
ややあって、宇奈月は恐る恐る衛に尋ねた。
「いや、気を失っているだけだ。心配ない」
「そうですか………。よかった………」
宇奈月は胸をなで下ろした。
そんな宇奈月に、衛は言う。
「元基さんが心配している。早くゲーセンに行って、安心させてやってくれないか」
「ったく、シスコンなんだから………。いいかげん、妹離れしてほしいわよね………」
困ったように言う宇奈月だったが、その目はとても嬉しそうだった。
宇奈月をゲーセンに送り届けたあと、衛は十番中学へと向かった。
うさぎたちがそこにいるかもしれないと、考えたからだ。
中学の近くまで来たとき、叫び声が聞こえたような気がしたので、衛は足を止めた。
高速で動く、黒い影が見えた。
正門が見えていたので、衛は正門に向かって全力疾走した。
校内が見えた。
校庭に小さな少女がいた。ちびムーンだ。ハート・アタックを放っている。
更にその奥、校舎側に四人の人影が見えた。ひとりは倒れている。
黒い影が、また動いた。
ちびムーンの背後にまわっている。彼女は気付いていない。
「まずい………!」
衛はタキシード仮面に変身した。
懐から真っ赤な薔薇を取り出すと、黒い影に向かって投げた。
影が怯んだ。
その隙に、ちびムーンがハート・アタックを仕掛ける。
影は消滅した。
ちびムーンが、こちらに気付いた。満面の笑みを浮かべている。
タキシード仮面もそれに対して、笑顔で答えたくなった。
ちびムーンが走ってくる。
「怪我はないか?」
タキシード仮面は、優しく訊いた。
ちびムーンは、大丈夫だと頷いた。
タキシード仮面はちびムーンが無事なのを確認すると、校舎側の四人に目を向けた。
その中に、亜美の姿を見つけた。
「亜美がいるのか?」
ちびムーンに訊いた。
「そうみたい………。あたしも今来たばかりで、よく分かんないんだけど………」
ちびムーンは、曖昧に答えただけだった。
セーラームーンとヴィーナス、ジュピターの三人は、倒れている人々を踏まないように気を配りながら、街を走っていた。
シールドが張られているおかげで、怪音波は聞こえてこないし、グロテスクな顔も空中にない。余計な気を使わずにすんでいた。
「待って!」
セーラームーンが、先を走っていたふたりを呼び止めた。
ふたりは止まって振り向く。
セーラームーンがだれかを助け起こしている。
「はるかさん!?」
以外だった。はるかは大丈夫だろうと、ふたりは思っていたからだ。
それは、はるかを助け起こしている、セーラームーンも同じだった。
「………ん………」
はるかが意識を取り戻した。
セーラームーンの姿を見て、我に帰る。
「くそっ………。あたしとしたことが、迂闊だった………」
はるかは立ち上がると、軽く頭を振った。
少しばかりやつれてはいるが、足もとはしっかりしていた。
セーラームーンは安心した。
「シールドを張ったのか………」
“風”の状態を感じて、はるかは呟いた。
今がどういう状況なのか、はるかには分からない。
「大丈夫ですか? はるかさん………」
歩み寄ってきたヴィーナスが、心配してくれた。
「ありがとう大丈夫だ。それより、どんなやつだった………?」
「………?」
はるかが問いかけてきたが、三人には何のことだか分からない。
「どんなやつって………?」
反対に、セーラームーンが聞き返していた。
はるかは驚いた顔になる。
「あなたたちが倒したんじゃないの………?」
「倒すって、何を………?」
今度はヴィーナスが聞き返した。話が見えてこない。
「………!!」
何を思ったのか、はるかは突然、隣にいたセーラームーンを突き飛ばした。
「はるかさん………!?」
ヴィーナスとジュピターは、同時に咎めるような口調で叫んでいた。突然、何をするのかと思ったからだ。
無防備だったセーラームーンは、バランスを崩して尻もちを突いている。
シュッ!
「………!」
ヴィーナスとジュピターのふたりの目の前を、何かが物凄いスピードで通りすぎた。
避けられたのは、偶然でしかない。
「え!? なに………!?」
「なんだ………!? 今のは………!?」
ふたりは狼狽し、目の前を通過していった物を探す。
「気を付けて! あたしも、そいつにやられたんだ!!」
はるかはそう叫ぶと同時に、セーラーウラヌスに変身していた。
シュッ、シュッ!
何かが猛スピードで移動している。数が正確につかめない。
「あれが、敵………?」
セーラームーンは、高速で動く物体を目で追おうとした。が、早すぎて追いきれない。黒い残像が見えるだけである。
「逃げよう! あいつに触られたらアウトだ!!」
ウラヌスから、思わぬ言葉が飛び出してきた。
「え!? 逃げる………!?」
シュープリーム・サンダーを放とうとしていたジュピターが、動きを止めた。その一瞬をつかれた。
三体の黒い影が、ジュピターに取り付いた。
「………!」
黒い影が、ジュピターに抱き付いた。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
ジュピターが悲鳴をあげる。
「天界震( !!」)
間髪を入れずに、ウラヌスがジュピターごと、黒い影を吹き飛ばす。手加減をしたから、ジュピターなら致命傷にはならないはすだ。
ジュピターから、黒い影が離れた。
その黒い影にめがけて、再び天界震を放つ。
直撃を受けて、物体は消滅した。
ジュピターに目を向けた。ヴィーナスが抱き起こしている。
「い、痛かったかな………?」
ウラヌスは、ちょっとすまなそうな顔をしてみせた。
「さあ………。本人に訊いてみないと………」
ヴィーナスは首を傾げた。ジュピターは白目を剥いている。
「しょうがないじゃないか、あの場合………」
「彼女が気が付いたら、ちゃんと謝っといた方がいいですよ」
「雷撃を食らいたくないもんな………」
ウラヌスは、困ったように後頭部を掻いた。
ふと、気が付くと、セーラームーンがまだ道路に腰を降ろしたままだった。
「もう、終わったわよ、おだんごちゃん」
ウラヌスは、自分が気に入っているニックネームでセーラームーンに言うと、にっこりと笑った。
セーラームーンは曖昧に微笑んで、それに答える。
「こ、こひがぬけた………」
ぺたんと、道路に尻もちを突いたまま答えるセーラームーンは、声も上擦っていた。
その姿を見たヴィーナスは、頭を抱えて溜め息を付いた。
情けない………。
そう、言いたげだった。
ウラヌスは、くすっと笑った。
セーラームーンの背中にまわり、抱き起こしてやった。
「しっかりしてよ。おだんごちゃん」
「め、面目ありませしぇん………」
セーラームーンは情けなさそうに笑った。
ヴィーナスは、ジュピターの頭を自分の膝に乗せたまま、もう一度溜め息を付いた。
そのヴィーナスの視線の先に、人影がふたつ現れた。
セーラームーンとウラヌスの後方、約五百メートルといった距離だ。
遅れて、ウラヌスも気付いた。
セーラームーンも腰を叩きながら振り返った。
ふたつの人影は、ゆっくりとこちらに向かってくる。
そのシルエットには、見覚えがあった。