コードネームは………!


 “クラウン”の地下司令室のモニターにも、その小さな戦士はとらえられていた。
「ちびムーン………!」
 司令室にいた全員が、驚愕する。
 何百というドロイド兵を相手に、セーラーちびムーンはたったひとりで戦おうというのか? 戦闘能力の乏しい今のちびムーンでは、ひとりで戦うのは自殺行為だ。
 ドロイド兵の一部がちびムーンに気付き、彼女のいるビルに向かって降下していくのが見えた。
 何を思ったのか、突然まことが司令室を飛び出していく。
「まこ、わたしも行くわ」
 レイも続いた。
 ふたりの考えていることは分かる。しかし、それもまた自殺行為だ。変身できない今の彼女たちは、文字どうり、普通の女の子なのだ。まともに戦えるはずもない。
「まさか………」
 元基の表情に、緊張が走る。茫然と、ふたりを見送る。
 少し遅れて、ふたりのあとを追おうとした亜美を、慌ててルナが呼び止めた。
「亜美ちゃん!!」
「!」
 亜美はピタリと足を止めた。
 そしてゆっくりと振り向くと、
「ありがとう、ルナ………」
 そう言ってにっこりと微笑むと、司令室をあとにした。
 亜美のその笑顔は、死を覚悟した者の、最後の笑みのように思えた。
 ルナと元基は、ただ茫然と見送ることしかできなかった。

 外は大混乱だった。
 ドロイドの大軍勢が、既に地上まで到達している。
 機関銃の乱射される音が響く。自衛隊と警察が応戦しているのだろう。
 上空にも迎撃機が数機、飛来している。
 十番街は、正に戦場そのものだった。
 三人は、そろって足を止めた。
 怖かった。
 このまま行けば、死んでしまうかもしれない。いや、きっと死んでしまうだろう。
 死は覚悟しているつもりだったが、いざとなると足が竦んでしまう。
 その時、四つの翡翠が輝きだした。
 レイのスカートのポケットから飛び出し、意思あるもののように、三人のまわりをフワフワと漂う。
「………我らは、プリンス・エンディミオンの四人の親衛隊………」
「………お前たちがその姿のままで、あえて戦おうというのなら………」
「………我らは、我がマスターの命に従い………」
「………お前たちを守るための、力となろう………」
 四つの翡翠は、そう語りかけてきた。厳密に言えば、声が聞こえたわけではない。そう言ったような、感じがしただけである。
 翡翠はいっそう輝きを増し、三人を聖なる光で包んだ。
 三人は、それぞれ顔を見合わせ頷き合う。
「行こう」
 まことの号令を合図に、三人は走りだした。
 まずは、ちびムーンを捜さねばならない。
 レイが神経を集中させて、ちびムーンの気を探る。
 見つからない。どこに行ってしまったのか?
 パニックになって逃げ惑う人々の中に、三人はそれぞれクラスメートの姿を見つけると、無事に避難できるようにと、祈らずにはいられなかった。
 更に三人は、人並みを掻き分けてちびムーンを捜す。
 姿が全く見えない。気も感じない。
 三人の脳裏に、不吉な予感がよぎる。
 数体のドロイド兵が、彼女たちを見つけて襲いかかってきた。
 まことが二‐三体のドロイドを、立て続けに投げ飛ばす。クンフーで鍛えた体は伊達ではない。一体一なら、それが例えドロイド兵であろうとも、負ける気はしなかった。
 レイが悪霊封じの札をバラまく。ドロイド兵は、いわば操り人形である。操っている者の念が届かなければ、ただの泥人形にすぎない。
 翡翠の力のおかげで、防御の方は戦士並みだった。
 しかし、動きそのものは、普通の人間と変わりがない。素早く動きまわるドロイド兵相手に、すぐに劣勢に立たされてしまった。更に悪いことに、ドロイド兵の中に、妖魔が混じっていた。レベルの低い妖魔ではあるが、今の彼女たちが勝てる相手でもない。
「ちっ! ここまでか………」
 まことが舌打ちする。
 三人のまわりを、ドロイド兵と妖魔がぐるりと取り囲む。
「ディザイア・アサスィネイション!!」
 幾筋もの細い光が、渦を巻いてドロイト兵たちに襲いかかる。
 三人は、呆気にとられてその光景を見ていた。こんな技は、見たことがない。
 光の筋は、命あるもののように動き、付近にいたドロイド兵を巻き込んで消滅させた。
「………!」
 レイは気配を感じて、上空を見上げた。
 見たことのないセーラー戦士が、すうっと降下してくる。セーラー戦士は、ふわりと三人の前に着地した。
「セーラーヒメロスです。アルテミス様より、三人のお命をお守りするように、申し使っております」
「アルテミスから………?」
「説明は、あとでいたします。とにかく、この状態を打開しなければなりません」
 ドロイド兵は、次から次へと降下してくる。たった今しがた、この近辺のドロイド兵は、殆どヒメロスに倒されたはずなのだが、数分で視界一杯に新手のドロイド兵が蠢いている。
「セーラーヒメロス! うさぎちゃんと美奈子ちゃん………。いえ、プリンセス・セレニティとプリンセス・アフロディアはどうしているの?」
 亜美が訊いてきた。
「既におふたりとも、マゼラン・キャッスルを脱出しておいでです。近くにいらっしゃるはずです」
 ドロイド兵を粉砕しながら、ヒメロスは答えた。
 と、その時、三人はビルの一角の向こうに、うさぎの声を聞いたような気がした。
 それは声ではなく、テレパシーに似たものだったかもしれない。
 三人は、近くにうさぎがいると感じた。
 あの向こうか………!?
「呼んでる………。うさぎがわたしたちを呼んでいる………」
 人一倍霊感の強いレイは、うさぎの波動をより強く、感じ取っているようだった。
「援護いたします! お三人は、セレニティ様のもとへ!!」
 ドロイド兵たちを撥ね除け、三人はうさぎの呼ぶ方に向かって走る。その三人を、ヒメロスが援護する。
 いた!
 パーラー“クラウン”の自動ドアの前に、美奈子とうさぎの姿を見つけた。うさぎの横に、ちびムーンの姿も見える。
 元気に手を振るうさぎの姿が、妙に懐かしい。
 三人の走るスピードが、更にアップする。
 うさぎまで、あと二百メートル。
 逃げ惑う人々の姿も、ドロイド兵の姿も、ここにはなかった。
 障害物はなにもない。
 うさぎまで、あと百メートル。
 うさぎ、美奈子、ちびムーンの三人も、こちらに向かって走り出した。
 あと、五十メートル。
 もうすぐだ。
 だが、そんな六人の間に、割って入ってきた影があった。妖魔だ。
 二体の妖魔が、六人の間に入り込む。
 障害物がないということは、それだけ目立つということだ。獲物を探す妖魔にとっては、見つけるのは造作もないことだった。
 上空に待機していたミネルバと四剣士も、彼女たちを見つけた。
「ホホホホホ………。お馬鹿さんね………」
 女性型の妖魔ブリジアは、残忍に瞳を輝かせた。
 しかし、彼女たちの行動も早かった。
 レイが悪霊封じの御札を投げるのと同時に、まことは妖魔ブリジアに突っ込んでいた。
 まことのダッシュ・エルボーを食らって、妖魔ブリジアは大きくのけ反った。
 が、そこは妖魔である。普通の人間の攻撃が、致命傷になるはずもない。
 すぐさま反撃し、逆にまことを弾き飛ばした。
 翡翠の力に守られていなかったら、まことの方が致命傷を受けていたかもしれなかった。
 お尻をしたたかに地面に打ちつけて、呻くまことに、レイと亜美が駆け寄る。
 ヒメロスが跳んだ。妖魔ブリジアに、華麗な廻し蹴りをお見舞いした。
 妖魔ブリジアの標的が、ヒメロスに変わった。冷たい色を放つ唇を僅かに開き、吹雪を吐き出す。
 ヒメロスは優雅な動きでかわす。素早さはヒメロスの方に武があるようだった。
 一方、巨体の妖魔ギガンテスは、うさぎたちに襲いかかっていた。
 ちびムーンが応戦するが、全く歯がたたない。
 ゴアァァァ………!!
 妖魔ギガンテスが、おぞましい呻き声を出す。
 呻き声は強烈な衝撃波となって、ちびムーンを襲う。
 うさぎは咄嗟に、ちびムーンを抱き上げると、右方向へ大きくジャンプした。
 ちびムーンを抱き抱えたまま、背中から地面に激突する。
「あうっ!」
 背中を襲う激痛に、うさぎが呻いた。
「うさぎ、しっかりしてよ!」
 悲鳴をあげるように、ちびムーンが叫ぶ。
 だが、うさぎは動けない。
 ちびムーンもうさぎが心配で、まわりを全く見ていなかった。
 ドスッ!
 鈍い音が、間近できこえた。
 うさぎが顔を上げたその瞬間、美奈子が妖魔ギガンテスのボディーブローを、まともに受けて吹っ飛ぶのが見えた。
 美奈子が、うさぎたちをかばったのだ。
 五メートルも後方に飛ばされた美奈子は、ピクリとも動かない。
 うさぎは背中の痛みも忘れて、美奈子に駆け寄る。
「アフロディア様!!」
 妖魔ギガンテスはなおも、うさぎに攻撃を加えようとしたが、割り込んできた四剣士によって制されてしまった。妖魔ギガンテスは不満そうな唸り声を上げて四剣士を睨むが、妖魔の威嚇程度で臆する彼らではなかった。
 妖魔ブリジアと格闘戦を演じていたヒメロスも手を休めた。何故か妖魔が攻撃を中止したからだ。ヒメロスは妖魔に警戒しながらも、視線は美奈子に向けていた。
 亜美も、レイも、まことも、ちびムーンも、そして四剣士までもが、美奈子のもとへ集まる。
「姉さん………!?」
 ミネルバだけが、茫然と上空に留まっている。
 二体の妖魔は、しかたなくこの場を離脱し始めた。
 美奈子は虫の息だった。
 セーラーヴィーナスにさえ変身していれば、今の妖魔の攻撃には耐えられただろう。だが、彼女は愛野美奈子のままだった。普通の人間のままで、妖魔の攻撃をまともに食らったのだ。ひとたまりもない。
 美奈子の目の前には、大粒の涙をボロボロと流している、うさぎの顔があった。
 美奈子は力なく、右手をうさぎの頬にあてた。
 冷たい。既に、血の気が失せてしまったのか………?
 美奈子は、何かを言おうとしているようだったが、声がでてこなかった。
 うさぎも何かを言おうとしたが、声にならなかった。
 やがて、うさぎの頬にあてられていた美奈子の手が、すうっと首筋に下がっていった。
 その時────。
 上空に閃光が走った。
 その場にいた全員が、ドキリとして上を見上げた。
 うろたえるミネルバと、何かに弾かれたように、大きくのけ反っている二体の妖魔の姿が見えた。
「なんだ!? どうしたんだ!?」
 狼狽して、クニードスが叫んでいた。
 いったい、何が起こったのか?
 妖魔たちは誰に攻撃を受けたのか? ミネルバは何に脅えているのか?
 シュルルルル………。
 風を切り、何かが旋回する。
 それはうさぎの首筋にあてられていた、美奈子の手を弾き、上空で大きく弧を描く。
 陽の光をいっぱいに浴びて、キラリと光ったそれは、三日月型をしているように見えた。
 ブーメランだ。三日月型の。
 ブーメランは再度、妖魔たちを牽制すると、自分を操る主人のもとへと戻ってゆく。
 夕日を背に、一際高いビルの屋上に立つ、この突然の乱入者の右手に、ブーメランはピタリと収まった。
 風になびく長い髪。その髪を束ねている、大きな真っ赤なリボン。揺れるミニスカート。そして、真っ赤なゴーグル。
 そのシルエットには、見覚えがあった。
 りんと響く声が、静まり返った戦場にこだまする。
「コード・ネーム・セーラーV!!」
 乱入者は、自らをそう名のった。
「うそ………!」
 うさぎはパニックになりそうだった。いや、うさぎだけではない。亜美、レイ、まこと、ちびムーンの四人も、それは同じだった。
 四剣士たちは、そんな彼女たちを見て、困惑する。彼女たちは、何でそんなに驚いているのか? あれはいったい誰なのか?
「お芝居はそこまでよ、アラクネ!」
 セーラーVが叫ぶ。
 考えるより先に、うさぎの身体は動いていた。
 素早く倒れている美奈子から離れ、身構えた。
「ククククク………」
 瀕死のはずの、美奈子が笑っていた。
「ククククク………」
 喉の奥の方で笑いながら、ふわりと身体を起こす。
 おぞましい妖気を放ちながら、美奈子は、いや、美奈子の姿をしたものは、その姿をアラクネへと変えていった。
「わたしの正体を見破るとは、お前、何者だ!?」
 アラクネは鋭い目付きで、セーラーVを睨む。
「まだ、気がつかないの?」
 セーラーVは、悪戯っぽく微笑んだ。そして、自ら赤いゴーグルを外す。セーラーVの素顔が現れた。
「あ………。そ、そんなはずは………」
 アラクネは、信じられないという顔をした。
「まさか………。どうやって………!?」
 アラクネは狼狽する。
「馬鹿ね………。あたしが、陰から姫様たちをお守りしていたことに、気が付かなかったの?」
 ヒメロスが勝ち誇ったような目で、アラクネを見ている。
 セーラーVが現れたことで、事態を飲み込んだ四剣士は、素早くミネルバのガードに廻った。ミネルバの四方を固め、剣を構える。
 ミネルバはまだ、困惑しているようだった。その四方を固め、剣士たちは油断なく剣を構える。
「おのれぇ………」
 アラクネは、苦虫を噛み潰したような表情で、悔しげに呻いた。
 セーラーVの背後から、別の声が響いてきた。
「ヴィーナスと入れ代わっただけでなく、妖魔に自分を攻撃させて、注意を全て自分に向けさせておいて、妖魔にミネルバを攻撃させる。そして自分は、無防備のセーラームーンを殺めるという作戦だったようだが、ヴィーナスを先に殺しておかなかったのが、貴様たちの敗因だ」
 セーラーVの背後から聞こえてきた声には、聞き覚えがあった。いや、決して忘れることのできない声。愛する人の、懐かしい声。
 声の主は、ゆっくりと姿を見せた。
 亜美たち三人を守護していた、四つの翡翠が、声の主のもとへと一直線に飛んでゆく。
 黒いマントが、風に揺れている。
「あ………」
 うさぎの目から、大粒の涙がボロボロと溢れる。飛んでいって抱きつきたい衝動を必死に押さえて、うさぎはマントの男の次の言葉を待った。
「今回の事件には、何か重大な裏が、隠されているような気がしてならなかった。敵の本当の目的を、知る必要があった。それを調べるには、自分が死んだことにしておくほうが、何かと動きやすかった。あの時、ビルの崩壊に紛れて“シャンデリア”に侵入させてもらい、キャッスルまで連れていってもらった。俺を殺すつもりが、結果的には、俺を自由に動かせることになってしまったようだな」
 マントの男に続けて、セーラーVが言う。
「彼とヒメロスのおかげで、あたしもここにいるわけよ」
 男はセーラーVを見て頷くと、再び話し出した。
「俺はキャッスルに潜入してから、ある物をずっと探していた。その途中で、宇宙港で、偶然君たちが入れ代わるのを見てしまった。俺はすぐに彼女を助けると、再びある物を探し始めた。“シャンデリア”の攻撃が遅れたことで、ギリギリこの決戦にも間に合った。結果論だが、全てが俺が動きやすいように、事が運んでくれたな………」
 マントの男はそこまで言うと、ちらっとうさぎに目をやった。
「うさ………」
 深く、吸い込まれそうな瞳。久しく感じられなかったその視線が、今、自分に向けられている。わずか一秒間、向けられただけの視線だったが、うさぎにとっては、永遠にも感じられる一秒だった。
「まもちゃん………」
 そんなうさぎの肩に、まことの手が、そっと触れた。彼女の瞳が、よかったね、と、語っている。
 レイと亜美がにっこりと微笑んでいる。
 ちびムーンも、嬉しくて泣いている。
「おのれェ!!」
 アラクネの叫び声が、静寂を破った。
 キャッスルにいるアドニスは、すでに次なる作戦────最終プロジェクトに向かって、
行動を開始しただろう。ならば、自分がするべきことはひとつ。ここにいる者全てを、地球上に、釘付けにしておくことだ。
 アラクネは禍禍しい妖気を放ちながら、その姿を変貌させてゆく。魔なる者へと………。
「妖魔と合体するなんて、馬鹿なことを………」
 セーラーVは、悲しげにアラクネを見た。
 アラクネの身体は、もはや人間の姿をしていなかった。血のように、赤い花びらを持つ花妖魔へと、その姿を変えていた。何本もある触手が、ウネウネとうねりながら、その場にいる全ての者に襲いかかる。次々とドロイド兵を吸収し、巨大化してゆく。
 上空に待機していた二体の妖魔が、四剣士たちに襲いかかる。
 タキシード仮面とセーラーVが、触手を躱しながら、うさぎたちのもとへやってきた。
「これを探すのに、時間がかかってしまった………」
 タキシード仮面はそう言いながら、ハート・ムーン・コンパクトをうさぎに手渡した。
 そしてセーラーVは、戦士のオーブを三人に渡した。
 どうやって取り戻したのかは、後で聞けばいいことだった。それよりも今は、目の前の敵を倒さねばならない。
「ムーン・コズミック・パワー!」
 うさぎはコンパクトを、高々と掲げた。
「ヴィーナス・プラネット・パワー!」
「マーキュリー・プラネット・パワー!」
「マーズ・プラネット・パワー!」
「ジュピター・プラネット・パワー!」
 四人の戦士たちも、右手を頭上にかざした。
「メイク・アーップ!!」
 五人の声が、同時に響く。
 パワーが開放され、五人は戦士の姿へと変身する。
「行くわよ!」
 セーラームーンのかけ声とともに、戦士たちは戦闘体勢に入った。

 セーラーマーズとセーラージュピターのふたりは、すぐさま上空へと舞った。
「この前の、お礼をしないとね」
 マーズがジュピターに向けて、軽くウインクする。ジュピターもウインクを返した。
 ふたりのターゲーットは、二体の妖魔だ。
 四剣士たちと戦っていた妖魔に、体当たりをぶちかますと、そのまま妖魔を運びさってしまう。
「こいつらは、あたしたちが貰っていくよ!」
 剣士たちとすれ違いざま、ジュピターが叫ぶように言った。
 少し遅れてセーラーヴィーナスが、ミネルバのもとへ到着する。
「姉さん………」
「姫様!」
 ミネルバと四剣士が、声をかける。
「話は、全ての決着がついてからよ」
 ヴィーナスはぶ然とした態度で言った。
「ここはわたしたちに任せて、あなたたちはキャッスルに戻るのよ。そして、アドニスを倒すの。アルテミスが残っているわ。彼と合流して………!」
 ヴィーナスはそう言うと、ミネルバを見た。
「はい。姉さん」
 ミネルバが頷くのを確認すると、ヴィーナスは次に四剣士に目を移す。
「ミネルバをよろしくね」
「ハッ!!」
 四剣士は最敬礼して答えた。
 五人は“シャンデリア”へ戻ると、マゼラン・キャッスルへ向けて、発進させた。

 アラクネは見境を無くしていた。無数の触手は、味方のドロイド兵を巻き込み、成長を続けている。
「どうなってるのよ………」
 セーラームーンは驚くばかりだ。
「気持ちわるーい!」
 ちびムーンが、わずかに身体を震わせながら言った。
「おそらく、合体した妖魔の力の方が強すぎて、アラクネは制御しきれないのだろう。彼女を助ける術は、ないかもしれない………」
 タキシード仮面は言うと、瞳を伏せた。
「アラクネ………」
 哀れみを帯びた瞳で、ヒメロスは変わり果てた彼女を見ていた。
 触手はなおも、成長をし続けていく。