☆第一話☆
「お兄様にはああ言ったけど、やっぱり入ろっと。」
こそこそと周りを見るアース。今見つかるとキングとエンディミオンに怒られてしまう。それだけはなんとしても避けなければならない。あの二人は怒るととても怖くなるからだ。
「誰もいないわねぇ・・・。よしっ!いまだ!!!」
だだだっと駆け出すアース。運良く見張りの兵士に見つからず、神殿に入れたのだった。
「うわぁ、すごくきれい!でも、初めに入ったときはこんなんじゃなかったと思うけどぉ・・・。」
初めてここに入ったときは、もっと静かで花も咲いてなかったように思う。
「今は祈りのときではありませんから。植物達も騒いでいるのでしょう。」
「だ、だれ!」
慌てて振り向くアースの後ろには、自分より頭一つ分ほど背の高い少年が立っていた。にっこりと笑うその顔には、邪険の色はなかった。
「はじめて御目にかかります。わたしは、エリュシオンの祭司エリオス。」
「エリュシオンの、祭司エリオス・・・?」
呆然としているアースを見て、くすりと笑うエリオス。
「あなたは本当にプリンスとよく似ておられる・・・。その青い瞳、黒くつややかな髪、その顔立ち・・・。」
そんなことを言ったのは、父と母以外に今までいなかった。とてもうれしかったが、気になることが一つあった。
「お兄様を知っているの?」
そう思ったのは、エンディミオンを見たことがあるような口調だったからだ。
「わたしは、エリュシオンの祭司でもあり、あなたがたの守護祭司でもあります。祈りのときにいつも見守っておりますよ。」
そう言って、見ているものを安心させる笑顔を見せた。
「プリンスがあなた様を探しておられるようです。もうそろそろお戻りになられたらいかがでしょうか?」
まだ戻りたくなかったが、怒られる方がもっと嫌だったので、帰らなければならなかった。
「プリンセス。また来られてもよろしいですよ。」
「本当に!でも、お兄様とお父様がなんて言うかしら・・・。」
あの二人は絶対許してはくれないだろう。それに、もう一度来てしまった事がばれてしまう。
「では、これをあげましょう。これはエリュシオンにある水晶からできた水晶玉です。これをもっていれば、いつでもエリュシオンに来れますよ。」
そういって出した水晶玉は濁りが全くなく、自ら青白い光を放っていた。大きさは直径二センチくらいの小さなものだった。
「わぁ、すごい!でもどうやって?」
「“エリュシオンに行きたい”と強く念じれば、いつでも大丈夫です。でも、祈りのときだけは行けません。祈りのときだけ、この水晶玉は光を放ちませんから。覚えておいてください。」
「ありがとうエリオス!じゃあ帰らなきゃ。ばいばい!」
「さようなら。お元気で。」
走っていくアースを、微笑みながら見守っているエリオスだった。
結局、エリュシオンに行った事はばれなかったものの、勝手にどこかへ行ってしまったことで怒られてしまった。しかし、アースはそんなことそっちのけで、ぼーっとしているのだった。
「あのエリオスって人、思い出してみればけっこうかっこよかったわね〜。わたし、あの人を好きになっちゃったかも・・・。」
むふふと笑うアースだったが、召使い達はそんなアースをかなり気味悪がっていた。
それからというものの、アースはしょっちゅうエリュシオンに行き、エリオスと仲良くなっていくのだった。