5.本当の想い ドウシテナミダガデルノ?ナンデワタシハナイテイルノ?ワタシノホントウノキモチッテ、イッタイドコニアルノ―――?ふっと、目が覚めた。時計の時刻は六時を指していた。台所の方からいい匂いがする。今晩の夕食だろう。
いつもなら、家族の誰よりも早くテーブルに着きつまみ食いをするうさきだが、今日は何も食べたくなかった。そんな気分になれなかった。「コンコン。」部屋のドアをノックする音がした。泣き過ぎていて声の出ないうさぎは、返事をすることができなかった。「うさぎ、入るわよ。」――――ガチャッ…。「レイちゃん……。」うさぎはベッドから体を起こした。「………うさぎ。」うさぎは、いつにも増してひどい様子だった。髪はグチャグチャに乱れ、目が真っ赤に腫れ上がっていたのだ。それが、衛と自分のせいだという事はレイも分かっていた。すうぅぅっと息を吸うと、レイは急に態度を変えて言った。「私、衛さんと付き合っているの。だから、もう衛さんに関わらないで!」その言葉を聞いた瞬間、うさぎはまた涙があふれ出てしまった。レイと衛が付き合っている事実を、頭では受け入れようとしても心が拒絶してしまう。なんとなく予想はしていたが、直接聞きたくはなかったのだ。そして、ハッキリと今、自分の中にあるこの感情が何なのか、うさぎは気が付いたのである。「レイちゃん…、わっ…私………、」下を向いたままのうさぎは、パジャマで涙を拭いながら呟いた。「私も…、衛さんの事……、」声が小さくて、レイにはよく聞こえなかった。けれど、うさぎの想いは十分にわかっていた。5人の中でも、特に一番うさぎと接してきたのはレイなのである。喧嘩ばかりしていても、レイはうさぎが大好きなのだ。うさぎの事は、うさぎ以上にわかっていまうのである。「私も、衛さんの事が好き……。」レイの顔を見る事が出来ない。うさぎは、レイには本当のことを言うべきだと思っていたのだ。衛とレイが付き合っているという事実を知ってしまったとしても、自分の気持ちをきちんとレイに打ち明けることが、今の自分にとって一番良い事だと気付いたからである。レイは大切な友達である。もちろんうさぎは、レイと衛の間に割って入ろうと思っている訳ではない。自分の正直な気持ちをレイに打ち明けたかった。ただ、それだけなのである。「……よかった。」急に笑顔に戻ったレイは、そう言ってうさぎの近くまで来てしゃがみ込んだ。ヘッ?と言いたそうな顔をしたうさぎは、何が何だか解からずにいた。「衛さんと付き合っているって言ったの、嘘なのよ。」優しい顔で見つめるレイは、うさぎの手を握って続けた。「うさぎの気持ちを確かめたくてね。自分の気持ちに素直になれない人に、衛さんを任せたくないもの。」うさぎの手に冷たいものが落ちてきた。「レイちゃん!?」うさぎは、レイが泣いている事に気が付いた。「うさぎ、私ね?衛さんにフラれちゃった………。」(レイちゃんが泣くなんて……。私、どうしたら………。)「うさぎ、衛さんの所に行ってあげて。」「えっ?」うさぎは驚いた。レイが何を考えているのかがよく解からなかった。「私は衛さんに、自分の気持ちを伝えたもの。次はうさぎの番じゃない!」レイは涙を拭いながら笑顔で言った。「で、でも……。」「自分に素直になるんでしょ!?」レイは強く言ってみせた。「…う、うん!」うさぎも笑顔になり、急いで着替えた。そして部屋を出ようとしたとき、「あっ!!」ポケットの中に何かが入っているのに気が付いた。それを取り出すと、レイに渡した。「衛さんから預かってたの。レイちゃんに渡してくれって…。」腕時計は、ひんやりと冷たかった。涙の跡が残っている頬に、レイはその時計を当ててみた。その冷たさが、とても気持ち良かった。「ありがとう………。」そう呟いたレイを見て、うさぎは部屋を出た。