3.戸惑い
 
 バタンッ!!
 玄関の扉が勢いよく閉まった。そして階段を登る音が家中に響いた。
「うるせーぞぉ、姉貴ぃ!」
 学校から帰ってきてゲームに夢中だった弟の進悟が、いつものようにうさぎに喧嘩腰で言った。しかし、うさぎは無言のまま部屋に行ってしまった。
「・・・・・・・・・あれっ?」
 進悟は不思議に思った。いつもなら、ここでうさぎの仕返しがある筈である。暴力をふるうことは無いが、凄い剣幕な表情でかかって来るのである。
「・・・珍しい事もあるもんだな。」
 そう思いながらも、進悟はやりかけのゲームを続けた。
 うさぎはベッドに潜り込んでいた。制服のままで布団に入ると、スカートのヒダがぐちゃぐちゃになってしまうのだが、今のうさぎにはそんな事関係なかった。
――――今まで大嫌いだったあの人。
 なのに、あの人が気になってしょうがない。
(レイちゃんの急な用事って、あの人に会うことだったんだ。そうだよね、レイちゃん前から好きだって言ってたもんね。でも・・・・・・、あの人は?あの人もレイちゃんのことが好きなの?だから二人で会っていたの?)
 胸が張り裂けそう・・・・・・。
 自分の頭の中で、レイちゃんとあの人が仲良さそうに笑っている。
 うさぎにはどうすることも出来ずにいた。今自分の抱いている感情がどういうものなのか、まだハッキリとは分からなかった。そんな感情を抱えたまま、うさぎは泣いていた。
(あ、あれ?なんで私泣いてるんだろう・・・・。)
 何度も涙を拭った。けど、いくら拭っても胸の痛みは消えなかった。
 涙は止まらなかった。
 うさぎは、このモヤモヤした気持ちが、涙と一緒に流れてしまえばいいのに――――――と思っていた。