動乱


 果たして何日が経過したのか、衛には判然としなかった。
 陽の光を、もう何日も見ていない。地下の(それすらも判然としないが)暗い監獄のようなところで、強制的に寝泊まりをさせられていた。ひとりに対して一部屋、四方を金属質の壁に囲まれた、狭い部屋が与えられている。人ひとりが、横になって寝るのがやっとという広さしかなく、用を足す場合には、いちいち監視のシスターを呼んで、部屋から出してトイレまで連れて行ってもらわなければならない。呼べばすぐに来てくれるのだが、用を足すのも監視付きというのはストレスが溜まる。
 一日の始まりは、けたたましいベルで始まる。金属音とも、電子音とも取れる不可思議な耳障りな音が神経を刺激して、目を覚まさせるのである。耳を塞いでいても効果がないらしく、文字通り叩き起こされるという感じだった。
 ベルが鳴り終わると同時に、電子ロックの錠がガチャリと外れる。部屋から出ろという合図だった。部屋に残ろうものなら、容赦ない制裁が加えられた。制裁を加えられた者の末路は考えたくもなかった。変化のない日々が、衛から「気力」を奪ってしまっていたのだ。
 部屋を出て長い通路を歩くと、広大なホールに辿り着く。囚われている者たちの集合場所だった。ホールに入ると、その場に腰を下ろすことになる。そして、その場でエナジーを吸い上げられるのだ。だが、完全に吸い尽くされはしなかった。エナジーを吸い尽くされれば、人は死んでしまう。だから、奪われるエナジーはギリギリで押さえられていた。
 食事は日に三度。それなりに栄養価の高い食事である。そのお陰で、エナジーをギリギリまで吸い取られても命に関わるような事態にはならなかった。死んでしまっては、元も子もないと言うことなのだろう。人数が不足すれば、また補充すればいいと考えがちだが、どうやらそれができない事情があるらしい。
「衛くん」
 今日、二度目の食事を終えた衛の横に、月野謙之がさり気なく寄り添ってきた。少しでも不振な行動を見せると、監視をしているシスターから制裁を受ける。謙之はこの食直後の機会を伺っていたらしい。
「午後はシスターの監視が手薄になる。例の作戦をこれから決行しようと思う」
 謙之は小声で言った。
 二度目の食事を目安に、食事の後を午後、食事の前を午前と呼んでいた。こんな憶測ができるのも、日に三度食事が取れるからに他ならない。二度目の食事を終えた後なので、今は“午後”ということになる。
「しかし、危険です。このホールを監視しているシスターの人数が見かけ上減るからであって、全体が手薄になると考えるのは迂闊です」
 衛は謙之の言う「例の作戦」には反対だった。危険すぎる賭けなのである。決行すれば多くの犠牲者が出ることは避けられない。衛ひとりで、ここに捕らえられている全員を守ることは不可能だった。
「囚われている人たちの中には、女性や子供、老人だっている。彼らはもう限界だ。いくら食事を与えられているからと言っても、もともと体力の少ない彼らには、これ以上は無理だ。体力的にもそうだが、精神的にもな」
 謙之の気持ちは変わらなかった。いや、謙之だけではない。「作戦」を計画している者たちの意志だろう。
「作戦」とはもちろん、ここから脱出する為のものである。謙之を中心とした記者団が音頭を取り、もう何日も前から綿密に計画を立てていた。
 衛は三日ほど前に、この「作戦」の内容を聞かされていた。しかし、それは無謀とも思える計画だった。
 第一に、彼らは戦闘のプロではない。いざ戦いになれば、戦闘の訓練を受けているシスターたちの敵ではない。武器になりそうな物も、当然ここにはない。
 第二に、ここがどこだか分からないと言うことだ。よしんば、この建物から脱出できたとしても、ここが地球上のどこなのかが分からなければ、次の行動に移れない。数百名もの人数を一度に脱出させようと言うのなら、それなりに乗り物が必要になってくる。それをどうやって確保しようと言うのか。
「お気持ちは分かります。ですが、無茶です」
 衛は断固として反対する構えを見せた。今は耐えて、仲間が救出に来てくれるのを待つのが、最善の策だと衛は考えていた。
「もう少し待って下さい。きっと助けが来ます」
 衛は謙之に、決行派の連中を止めて貰いたかった。謙之は言葉に詰まって唇を咬む。苦悩の表情で視線を下に落とす。
「………本当に、助けは来ると思うか?」
 謙之は短く訊いた。
「来ますよ、必ず」
 これだけは、自信を持って言えることだった。必ず彼女たちが、自分たちを発見してくれると信じていた。
 謙之は再び苦悩の表情を見せた。その様子から、実のところ謙之自身も、強行脱出には反対であることが伺い知れた。
「二日だ」
 苦悩の末、謙之は重い口を開いた。
「二日だけ待つように説得しよう。だが、それ以上は無理だ」
 謙之は言うと、おもむろに立ち上がった。
 衛はホッと胸を撫で下ろす。衛もさすがに、数百人からなる人数をひとりで守りきれる自信はなかった。自分ひとりだけなら、ここから脱出することは容易いだろう。いや、それ以前に囚われの身となることすらなかったかもしれない。
 しかし、衛のその安堵の笑顔は、一瞬で終わった。
 強行派のメンバーが、謙之の帰りも待たずに行動を起こしてしまったのだ。比較的若い者たちの集まりだった。
 衛には為す術がなかった。
 暴徒と化した者たちは、ホールを監視していたふたりのシスターを撲殺すると、一方に向かって走り出す。
「妙だ! 調査ではあっちには出口はないはずだ!」
 謙之は色をなした。脱出方向が、あらかじめ打ち合わせをした方向と異なっているのだ。
「どういうことだ!?」
 謙之は、同じく狼狽している若い記者らしい男を捕まえて、怒鳴るように訊いていた。
「月野さん! すみません、分からないんです! 何故かこう言うことになってしまって………」
 捕まえた若い記者らしい男も、事態を把握できていなかった。彼が気付いたときには、既に暴動が起きていたというのだ。
「月野!」
「飯塚さん!?」
 謙之は名を呼ばれ、弾かれたように振り向いた。
「これは、君が仕掛けたのか?」
 飯塚と呼ばれた男は、この暴動のことを言っているようだった。
「いえ、わたしではありません。わたしは飯塚さんが行動を起こしたものだとばかり………」
 謙之の口振りから、この飯塚という男が強行派のリーダーだと言うことが分かった。
「何者かが先導しているのだと思います。この暴動を(けしか)けたやつがいます」
 衛の直感だった。そうでなければ、これ程までにタイミング良く暴動が起こるはずがない。謙之たちの計画を知っていた何者かが、先走ったのかもしれない。極限まで追い詰められた精神は、一度(かせ)が外れると、歯止めが利かなくなる。血気盛んな若者たちが中心となり、狂ったように暴れ始めた。
「キミは………?」
 胡散(うさん)臭そうな人物を見るような目で、飯塚は衛を見た。衛の口調は冷静だった。この状況下において、あくまでもクールに状況を判断して見せた衛のことが、面白くないようだった。青二才の分際で偉そうなやつ。顔にそう書いてあった。
「わたしの息子になる男です。信頼できる男です」
 謙之がすぐさま衛のことを説明した。単なる知り合いではなく、「息子になる男」と紹介してくれたことが、衛は嬉しかった。
「そうか。いつぞや俺に自慢した娘の婚約者か」
 飯塚は警戒心を解き、大きく二度ほど肯いた。
「地場 衛といいます」
「うむ。地場君、キミは今この暴動が(けしか)けられたものだと言ったが、何か根拠があるのかね?」
「根拠はありません。直感です。ただ、実質のリーダーだと思われるあなたが指示したことでないのならば、当然別の誰かが先導を切っているはずです。これだけの大規模な暴動を起こすには、それなりの先導者が必要だと思いますが?」
「確かに、キミの言う通りかもしれん………」
 飯塚は、奇声を発しながら一定方向に突き進む仲間たちを眺め見る。
「向こうに行けば、何か分かるかもしれん」
「危険ですが、行くしかないでしょう」
 衛は人々が進んでいる先を見やる。確かめなくてはならない。あの先に、何が待っているのかを。
「行きましょう」
 号令を掛けたのは、謙之だった。

 抵抗は拍子抜けするほど少なかった。シスターたちの姿が、予想以上に少ない。
「出払っている………!?」
 そう考えるしかなかった。自分たちを監視するはずのシスターたちまで駆り出さなければならないような何かが、起こっているのかもしれなかった。
「来てるのか!?」
 衛の期待は高まっていた。シスターを駆り出さなければならない事態とは即ち、仲間たちが救出に来ていると言うことではないのか。
「来ている? 助けがか?」
 衛の呟きは、謙之の耳にも届いていた。心の中で呟いたつもりが、声に出してしまっていたようだ。
「これだけ抵抗するシスターが少ないと言うことは、可能性はあります」
「誰が助けに来ているって言うんだ?」
 問い掛けてきたのは飯塚だった。
「それは………」
 さすがに衛は言い淀んだ。セーラー戦士たちが助けに来てくれたかもしれないなどと言っても、信じてもらえそうにはない。
 衛がどう答えようか苦慮していると、突然前方で爆発が起こった。
「なんだ!?」
 飯塚と謙之が、同時に叫んで前方を凝視した。
 前方に人の集団が見えた。シスターと小競り合いをしているらしい。男性の気合いの入った怒号に混じって、若い女性の声も聞こえる。
「怪我人は放っておきなさい! 逃げ遅れるわよ!!」
 女性のそんな声が耳に飛び込んでくる。
「先に行きます!」
 謙之と飯塚にそう告げると、衛は前方の人の集団に向かって走った。シスターと揉み合った際に怪我をしたのか、それとも先程の爆発で怪我を負ったのか、中年の小柄な男性が床に(うずくま)って呻いていた。
「どこをやられた?」
 衛が駆け寄って声を掛けると、男性は驚いたような顔を上げた。
「あ、足だ………」
 苦しげに短くそう説明し、右足を手で示した。外傷はなかった。
「立てますか?」
「あ、ああ。なんとか………」
「つかまってください」
 衛が男性に肩を貸して立ち上がると、謙之と飯塚が追い付いてきた。
「手を貸そう」
 謙之が衛の反対側に回り込んで、男性を支えてくれた。
「すまない」
 苦しい息の中、男は礼を言った。飯塚が先導する形で、衛と謙之は男を支えながら前進する。
「そんな人は放っておきなさい。自分でミスをして怪我をした人なんか、助けている余裕はないのよ?」
 そんな彼らに、冷淡な声が浴びせられた。女性の声だった。先程チラリと聞こえてきた声と、同じものだと感じられた。
「怪我人を放ってはおけない!!」
 衛は声の聞こえてきた方に顔を向け、怒鳴るように言った。このまま彼をこの場に残していったら、間違いなくシスターに捕らわれてしまう。最悪の場合は、その場で殺されてしまうかもしれない。
「困っても助けないわよ!」
「!?」
 毅然とした態度で、こちらを見据えている若い女性の姿を見付けた。彼女が声の主なのだろう。その女性の顔を見た瞬間、衛の体に電撃が走った。その女性の顔に見覚えがあったのだ。
(まさか、彼女は………)
 女性は衛を見ても表情を変えていない。と言うことは、彼女は自分のことを覚えていないのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。それとも、ただ似ているだけなのか?
「なによ!? 何か文句があるわけ?」
 自分の顔をじっと見つめている衛に腹を立てたのだろう。女性はツカツカと歩み寄って来ると、衛の鼻先に自分の顔をくっつけるようにして金切り声を上げた。
(似ている………)
 近くで見ると尚更だった。その女性は、衛の記憶の中にある女性と、非常によく似た顔立ちをしていた。
「何とか言いなさいよ!!」
 衛が無言でいると、女性は益々(いきどお)った。無視をされているとでも思ったのだろう。衛が何事か言おうと口を開き掛けたが、飯塚の方が僅かに早かった。
「この暴動は、キミが先導しているのか?」
「まさか! あたしには、そんな大それたことはできないし、そんな技量もないわ。たまたま近くにいた連中をまとめはしたけどね」
 それが、この場にいる集団なのだろう。
「そうか、ではいったい誰が………」
「誰だっていいんじゃない、この際。こうなっちゃったからには、あたしたちはもうここにはいられないんだし、混乱に乗じて逃げるしかないじゃない。残ってたって、殺されるだけよ」
「だが、ここがどこだか分かっているのか?」
 今度は衛が尋ねる。
「ここを脱出できたとしても、逃げ切れる保証はないんだぞ?」
「頭悪いのね、あなた。ここがどこだかなんて考えてたって、もうどうしようもないでしょ? 行動を起こしちゃったんだから、今更やめることはできないわ。ここが地球のどこであるかなんて考えるのは、無事この場所を脱出してから考えればいいことよ」
 反論は許さないといった表情で衛にそう言うと、次ぎに飯塚に顔を向けた。
「おじさんは確か、いつも偉そうに何か語ってた人よね? こうなったら、おじさんにみんなをまとめてもらった方がよさそうね」
「キミに言われるまでもない。だが、キミにも協力してもらうぞ?」
「ええ、いいわよ。臆病者のお尻を叩くことくらいはできるから」
 女性は憎らしげな笑みを浮かべて、チラリと衛を見た。彼女の言う「臆病者」とは、どうやら衛のことらしかった。衛は肩を(すくめ)るしかない。謙之は苦笑いしている。
(たくまし)いな。わたしは飯塚だ」
「あたしは翠川(みどりかわ)翠川(みどりかわ)(しのぶ)よ。一応短大生よ」
「思ったより若いんだな」
「スッピンだと老けて見えるのよ」
 忍はムスッとした表情で答えた。

 結果的に飯塚がまとめることになった集団は、三十人程の集団だった。そのうち、女性が忍を含めて九人。子供が三人。高齢者はいなかった。
 まわりにシスターの気配はなく、今は一息付いているところだった。まだ建物の中にいるので安心はできないが、シスターの姿がないことで、少しは休息を取ることができる。
 時折、どこからともなく怒号と悲鳴が聞こえてくる。他の集団が、建物のどこかでシスターと戦っているのだと思われた。大勢いたはずの捕らわれた人々も、今やバラバラになってしまっているようだ。幾つかの集団に別れて、個別の判断で脱出経路を探っているのだろう。飯塚や謙之たちで綿密に計画した脱出作戦は、最早絵に描いた餅となってしまったと言うことだ。
「あなた、まだ名前を聞いてなかったわ」
 腰を落として怪我人の手当てをしていた衛の背後に、忍が歩み寄ってきた。
「地場 衛だ」
 怪我をした箇所に、本人に分からないように“気”を送り込み、ある程度治療してやる。他人の力を借りずに動ける程度に回復させてやらなければ、本当に足手まといになってしまう。タキシード仮面にでも変身すれば、もっとしっかりと治療してやれるのだが、「衛」の姿ではそうもいかない。ましてや、うさぎの父親の謙之が一緒にいるのでは、あからさまに超能力を使うわけにはいかなかった。
「どうです?」
「ああ、ありがとう。痛みがだいぶ引いてきた。これなら、ひとりで歩けそうだ」
「そうですか。よかった」
 衛は怪我人の男性に笑いかけると、ゆっくりと腰を上げた。
「何か用か?」
 自分の背後から立ち去ろうとしない忍に、衛は振り向いて尋ねた。
「さっきは、何をあたしに言い掛けたの?」
「さっき?」
「飯塚っておじさんに、何か言おうとしたこと邪魔されたでしょ?」
「ああ………」
 衛はわざとらしく肯いてみせた。女性の口調は、相変わらず粗野だった。これが彼女のしゃべり方なのだろう。猫のようにやや吊り上がった目が、彼女の性格がきつそうな印象を与える。整った顔立ちをしているので、きちんと化粧をすれば相当な美人に見えるだろうと思えた。
「いや、気にしないでくれ。知っている女性に似ていただけだ」
「随分と時代遅れな口説き文句ね」
「別に口説くつもりはない」
「………って言っておきながら、言い寄って来るやつ多いのよね。ウンザリだわ」
 忍は確かに美人である。言い寄って来る男も多いだろう。ナンパ男の扱い方なら、慣れていると言うような表情を忍は見せた。
「なら安心してくれ。俺は本当にその気はない」
 衛はあっさりと答えた。
「あからさまにそう言われると、腹立つんだけど………」
 忍は苦笑する。多少なりとも、プライドに傷が付いたのかもしれない。
「ま、実はさっき月野さんにいろいろ聞いちゃったから、本当は知ってたんだけどね。月野さんのお嬢さんと、結婚するんだって?」
「そのつもりだ」
「残念だわ………」
 小さな溜め息を付きながら、忍は肩を(すぼ)めた。本当に残念がっているようでもあり、冗談で言っているようでもあった。
「あなた、お幾つ?」
「ん? 二十一歳に………なったはずだ。今が八月の何日かは分からないが、俺の誕生日は過ぎていると思う」
「へぇ………。あなたも八月生まれだったんだ。あたしもそうよ。八月三日。二十歳になったはずよ」
 忍の誕生日は自分と同じだったが、そこには敢えて触れなかった。同じだなどと言ってみようものなら、また「古臭い口説き文句」だと言われそうだと思ったからだ。
「ちょっと、いいかしら?」
 忍は、こっちに来てくれと言う風に衛を手招きする。人の集団から、少しばかり離れたいようだった。他人には聴かれたくない話らしい。
 衛は忍に誘われるまま、僅かに人の集団から離れた。小声で話せば他人の耳に入る心配がない程度に距離を取ると、忍は立ち止まって衛に振り返った。
「あなたも不思議な能力(ちから)を持っているのね」
 衛は眉根を寄せた。人知れず怪我人を「治療」していたことに、忍は気付いてしまったらしかった。
「その訊き方だと、キミも不思議な能力(ちから)を持っているように聞こえるが?」
「ええ、持ってるわ。あたしの能力(ちから)は、あなたのように『治療』に働く能力(ちから)じゃないけどね。あたしの能力(ちから)は、どっちかって言うと『破壊』をもたらす能力(ちから)ね」
 衛は僅かに目を閉じて息を吐いた。自分の記憶の中にいる「彼女」も、そう言う能力(ちから)を持っていた。
「不安なのか?」
「少し………ね。だって、変じゃない。『普通の人』にはない能力(ちから)だもの。あなたは、戸惑わなかった?」
「どうだったかな………」
 衛は目線だけで宙を仰ぎ見た。自分が初めてこの能力(ちから)に気付いた時のことを思い出そうとしたが、残念ながら思い出せなかった。
「やはりキミは、俺の知っている女性なのかもしれない………。いや、正確にはその女性の生まれ変わりと言うべきか………」
「生まれ、変わり………?」
「全てを思い出せば、その能力を持つ意味が理解できるだろう。しかし、思い出さない方が、キミにとっては幸せなのかもしれない。今俺が言えることは、それだけだ」
 衛は真っ直ぐに忍の瞳を見つめてそう言うと、くるりと背を向けてしまった。