イシスの涙


 一瞬だけイシスは、棺の中に愛おしそうな視線を落としたあと、再びセーラームーンに視線を戻した。
「我が組織の大司教ホーゼンは、既に会っていると思う。しかし、あの者の目的までは知らぬであろう?」
 セーラームーンたち三人に、イシスはしたり顔を向けた。
「目的?」
 ネフライトが、探るような視線を向けた。イシスはゆっくりと肯く。
「我らブラッディ・クルセイダースの目的と、あの者の目的は明らかに違うのだよ。あの者の目的はな、ある者の復活にあるのだ」
「ある者の復活? まさか………!?」
 セーラームーンは表情を強張らせた。時期が合致しすぎている。偶然でなければ、大司教ホーゼンが復活させようとしている者とは、セーラーヴァルカンということになる。ということは、大司教ホーゼンはセーラーヴァルカンの配下の者なのか。
「思い当たる節があるのか? それが正しいのか、過ちであるのかはわらわには分からぬ。わらわが知っておるのは、大司教が何者かの復活のために、我がブラッディ・クルセイダースを利用しているという事実のみ。大司教はその者の復活に必要な、触媒になりうる者を捜しているのじゃよ」
「触媒?」
「そう、触媒じゃ」
 イシスは肯く。アヌビスもトトも動かなかった。ただ、視線はずっとネフライトとゾイサイトに向けられている。彼らが少しでもイシスを攻撃するような素振りを見せれば、彼らは全力でそれを阻止するだろう。それは、ネフライトとゾイサイトも同じだった。彼らもセーラームーンを守るため、アヌビスとトトを警戒していた。
「大司教ホーゼンはある者の『種』を持っている」
 自分たちの身を守ろうとしてくれている戦士たちの微妙な駆け引きを気付いているのかいないのか、イシスは全くの無防備な状態で言葉を続けた。それを聞いているセーラームーンも、殆ど隙だらけだった。
「『種』を植え、そしてそれを育てるためには『畑』がいる。そしてこの場合、大司教が求めていたのは健康な女性の肉体………」
「それってまさか………」
 セーラームーンは頬を赤らめて絶句した。大司教ホーゼンが、執拗に自分たちを狙っていた理由を、イシスに説明されてようやく理解したからだ。
「そう、そのまさかよ。健康な女性に『種』を植え付け、『発芽』するのを待つ。もっとも、健康であれば誰でもいいというわけではない。大司教が初めに目を付けたのは、我がブラッディ・クルセイダースの母、マザー・テレサ………。それに気付いていないのは、恐らく本人だけだろうが………」
 イシスは目を伏せた。が、すぐに再びセーラームーンを真っ直ぐに見つめる。
「大司教がお前たちセーラー戦士に目を付けたのは、恐らく、マザーに植え付けた『種』が『発芽』しないからなのだろう。マザーは確かに素晴らしいエナジーをお持ちだが、齢を重ねすぎたという点で、お前たちに劣る。健康で若いお前たちのそのパワーのもとなら、『発芽』も容易いと考えたのかもしれん」
 イシスの猥褻的(わいせつてき)な視線が、セーラームーンに注がれた。その視線に、セーラームーンは本能的に二‐三歩後退した。
「大司教が復活させようとしているある者って、何者なの?」
 推測を確信にしたいが為に、セーラームーンは質問した。しかし、イシスは首を横に振る。
「それはわらわも知らぬ。知りたければ自分たちで調べるがよい。ただ、我らにとっては必要のない存在であることには間違いはない。大司教とわらわたちでは、先も言ったとおり、最終的な目的が異なるのだ」
 イシスはそこまで言うと、くるりと背を向けた。棺の前で膝を落とし、愛おしそうに中を覗き込んだ。
「おしゃべりは、もうお終いじゃ。わらわは、兄上の復活のための『儀式』を始めねばならぬ。お前たちと遊んでいる暇はない」
 イシスのその言葉を聞くと、アヌビスとトトが間合いを計るように体を動かし始めた。
「セーラームーン。両脇の奴らは俺とゾイサイトで始末を付ける。お前はあの棺に捉えられている者を助け出してくれ」
 ネフライトが囁くように言った。
「あの棺の中にいるのは、まもちゃんじゃないよね?」
「残念ながらと言う台詞は適切ではないが、あの棺からはマスターの“気”を感じない。別人だ」
「分かった」
 セーラームーンは意を決したように、前方で背を向けたままのイシスに鋭い視線を向けた。衛がいないからと言って、気を落としている場合ではなかった。罪もない男性が拉致されていると分かれば、救出しなければならない。
 ネフライトとゾイサイトが動いた。一直線に、それぞれ自分の相手と見定めた者たちに向かって突き進んだ。
 アヌビスとトトが応戦するために身構えた。しかし、身構えるだけでその場からは動かない。動いてしまったら、イシスを守れないからだ。ふたりは戦いながらでも、イシスを守る気でいるのだ。
「甘く見られたものだな」
 ネフライトは僅かに口の端を歪めてみせた。
「すぐに分かるよ」
 ゾイサイトが応じた。負傷した左腕は、セーラームーンのヒーリング・エスカレーションで完治していた。
 セーラームーンはまだ動かなかった。今動いては、戦闘の邪魔になると判断したからだ。ネフライトとゾイサイトが、アヌビスとトトの今いる場所を移動させるまでは、ここでじっとしているしかない。しかし、そうのんびりとしているわけにはいかなかった。
 イシスの言う「儀式」が、どういったものなのか分からないからだ。
 ふたつある棺のうち、ひとつに囚われた人物の“気”を感じると、ゾイサイトは言っていた。残りのひとつにも、何か特殊な波動を感じると言っていたが、それが何であるのかは彼も分からなかった。
 手前の棺を愛おしそうに見つめていたイシスが、ゆっくりと腰を上げた。いよいよ「儀式」を始めるらしい。
「行くしかないか………」
 自らを奮い立たせるように、セーラームーンは呟いた。エターナル・ティアルを手に、全力で駆け出した。
「ふたりとも、目!!」
 走りながらセーラームーンは叫んだ。ふたりにはそれで通じるはずだった。いや、通じてもらわなくては困る。
 威嚇のためのトワイライト・フラッシュを放つと、セーラームーンはエターナル・ティアルを構えて宙を舞った。
 激しい閃光で目をやられたアヌビスは、呻きながら動きを止めた。その隙を、ネフライトが見逃すはずもない。目にも留まらぬ連続技を叩き込むと、トドメとばかりに得意のスターライト・アタックを仕掛けた。
 だが、アヌビスとて並の戦士ではなかった。シールドを張りながら、回避の為の行動を取っていた。
「ちぃっ!」
 直撃を免れたアヌビスが反撃に転じた。長槍を振り回し、身を宙に躍らせた。
「馬鹿め!」
 ネフライトの思う壺だった。宙に身を躍らせている間は、絶好の標的なのだ。
「ライトニング・ブレード!」
 いかづちを(まと)った剣を、右手に出現させる。
「ネフライト・サザンクロス・フラッシュ!」
 いかづちの剣を構えた瞬間、ネフライトの姿はその場から消えていた。文字通りいかづちの如く、アヌビスに襲い掛かった。
 アヌビスが自らの肉体に激痛を感じた時には、全てが遅すぎた。十文字に切り裂かれた肉体は、光の粒子となって四散していた。
 仲間の死を目の当たりにしていながら、トトは冷静だった。先程のトワイライト・フラッシュにも動じる様子を見せなかったトトは、かなりの手練れだと感じた。
(相手を間違えたな………)
 トトの相手をネフライトに任せるべきだと感じたゾイサイトだったが、今更変更を受け付けてくれるほど彼は甘くはなかった。
 トトも長槍を武器にしていた。無駄な動きを全く見せず、瞬時に間合いを詰めてくる。
「シャイニング・ブレード!」
 ゾイサイトは輝く剣を出現させた。ネフライトのライトニング・ブレードと比べると、少々細身の剣である。
 無言のまま突き出されたトトの長槍の先端を、ゾイサイトはシャイニング・ブレードで弾いた。一連の動作のまま、トトの背後に滑るように回った。
 後ろを取られたからとて、トトは慌てる風もなかった。落ち着いた槍さばきで、ゾイサイトの剣に対処する。
 武器のリーチの差が、如実に現れた。トトの長槍に対し、ゾイサイトの小振りな剣は、リーチの上で絶対的に劣っていた。かなり踏み込まなければ、トトに決定打を与えることはできないだろう。だが、長槍を自在に操るトトは、ゾイサイトが近付くことを許さなかった。
「やはり、強い!」
 一筋縄ではいかない相手だと、ゾイサイトは改めて思い知らされた。ならば、できるだけイシスから遠ざけるように戦うしかない。セーラームーンのことは、既にアヌビスを倒したネフライトに任せておけばいい。
 ゾイサイトは前方のトトに、全神経を集中させることにした。

 トワイライト・フラッシュを照射して突っ込んできたセーラームーンは、イシスの背後まで迫っていた。だが、彼女は全く振り向こうとしない。棺を覗き込んだまま、押し黙っている。
 無抵抗の相手の背中に攻撃するわけにもいかず、セーラームーンはイシスの背後に立って、棺の中を見下ろした。
 手前の棺、イシスが覗き込んでいる棺の中に、男性が横たわっていた。端正な顔立ちの美青年だった。日本人である。恐らく、衛を乗せていたジェット機に乗っていた人物だろう。
 奥の棺にも人が横たわっていた。前方の男性とは違い、衣服を着ていなかった。やはり、男性だった。
 思わず頬を赤らめて、セーラームーンは顔に視線を移した。裸の男性を見てしまった事への恥ずかしさと、その男性の顔を見たいという欲求からだった。しかし、
「!」
 セーラームーンは思わず息を飲んだ。その男性は頭部こそ本来あるべき位置にあったが、そこに同じく、当然の如くあるはずのものが欠如していた。
 「顔」がないのである。
 のっぺらぼうの妖怪がいたら、きっとこんな風だろうという頭部が、そこにはあったのだ。
「何を驚いているの?」
 童女が大人に尋ねるような不思議そうな顔を、イシスは向けてきた。セーラームーンは声も出ない。
「奥に寝ているのは、わたしのお兄さまよ………」
 先程の威厳のある言葉とは、全く異なったものだった。声の調子も違う。まるで別人の印象を受けた。
「わたしね、世界中を捜して、お兄さまを集めたのよ。お兄さまと同じ足、お兄さまと同じ腕、お兄さまと同じ胸………」
 イシスはのっぺらぼうの妖怪の胸板に頬をすり寄せる。
「そして、最後のひとつをようやく手に入れたのよ………。ここにいるのは、お兄さまと同じ顔を持つ人よ………」
 愛おしそうに胸板を撫でていたイシスはゆっくりと顔を上げ、まるで童女のような瞳を、セーラームーンに向けた。
「これであたしだけのお兄さまが生まれるの………。前のように、わたしを裏切ることはないわ。前のお兄さまはね、あたしを裏切って、他に好きな女の人を作ってしまったの。だから、その女ともども殺してやったわ………。だって、許せなかったんだもの………」
 イシスの頬を涙が伝う。その涙は、棺に横たわっている男性の顔の上で弾けた。
「う………」
 男性が意識を取り戻した。朦朧とした様子で、宙を見つめている。
「大丈夫よ。苦しみは一瞬だから………。あなたは、あたしのお兄さまとして生まれ変わるのよ」
「こ、ここは………。はっ」
 自分の置かれている立場を悟った男性は、弾かれたように半身を起こした。
「だ、だれだキミは!? ここは、どこなんだ!?」
「あたしはイシス。そして、ここはあたしのお城………」
 尋ねられた事柄を、イシスは素直に答えていた。しかし、気が動転してしまっている男性には、物事を正確に把握するだけの余裕がない。無理もない。彼はジェット機に乗っていたのだ。そして、気が付いたら棺の中に入れられていたなど、悪夢だとしかいいようがない。
「イシス! 彼を解放するわ! あなたの夢物語は終わりよ」
「夢? 何を言っているの? これは現実なのよ………」
「あなたの欲望のために、今まで何人の人が犠牲になったかは分からない。だけど、目の前にいる人はあたしが守る! 目を覚ましなさい! あなたは自分がやっていることを分かっているの!?」
 イシスがやろうとしていることを理解し始めたセーラームーンは、エターナル・ティアルの先端をイシスに向けながら、強い口調で言い放った。そのやや後方に、アヌビスを倒したネフライトがやってきた。ゾイサイトは未だトトと交戦中のようだ。
「もちろん、分かっているわよ。だから、邪魔をしないでほしいの」
 イシスは答えると、男性の方に向き直った。熱い眼差しで男性を見つめる。
「さあ、いらっしゃい。お兄さまの大事なパーツとして、あなたに新たな命をあげましょう」
「く、来るな!」
 しなやかに伸ばされたイシスの両の手を、男性は平手で打った。顔は恐怖で怯えている。
「何をそんなに怯えているの? 怯えることなんてないのよ、お兄さま………」
「やめなさい!」
 尚も詰め寄ろうとするイシスをセーラームーンが制する。しかし、
「邪魔よ!」
 イシスは凄まじい形相でセーラームーンを睨むと、その気迫だけで彼女を弾き飛ばした。一瞬の出来事であったため、ネフライトも対応が遅れた。弾き飛ばされてくるセーラームーンを受け止めてやることができなかったのだ。
 セーラームーンは五メートル程後方に飛ばされると、床にお尻から着地した。
「わらわの邪魔をすることは、何人たりと許しはせぬ!」
 再び口調ががらりと変わった。
 男性は尻餅を付き、既に逃げ腰になっていた。その男性を、イシスは蔑むように見下した。
「大人しく、我が兄上の復活のための糧となれ!」
 右手をぐんと前方に突き出す。何かを握りしめようとする動作を示すと、急に男性が苦しみだした。首を押さえ、藻掻きだした。
「駄目ぇ!!」
 セーラームーンが額のムーン・ティアラを飛ばしてきた。突き出されたイシスの手首を切り落とす。
「あくまでもわらわの邪魔をするのか!? よかろう。先にお前たちを始末してくれる」
 手首を切り落とされたにも関わらず、イシスは全く動じていなかった。まるで、何事も起きていないかのようであった。
 残っている左の手を前方に伸ばす。男性にしたと同じように、手を触れずにセーラームーンの首を締め上げた。
「俺がいるのを忘れたのか?」
 ネフライトがスターライト・ブレードで斬り付ける。左の手首を切断し、返す刀でイシスの心臓を狙った。
「ぐっ!」
 一陣の風が吹き抜けた。ネフライトとイシスの間合いに、強引に何者かが割って入った。
 トトである。
 ゾイサイトと交戦中でありながらも、常にイシスに気を配っていたトトは、彼女の最大の危機に身を挺した。トトはその一命を賭して、イシスを守る。ネフライトの一撃は、確実にトトの心臓を捉えていた。
 イシスは無表情だった。部下が自分を庇って命を落としたにも関わらず、何の感情も沸いてこないようだった。
 彼女の足下で既に絶息したトトをちらりと見下ろすと、イシスはくるりときびすを返した。
 捕らえてきた男性は、腰を抜かしてガタガタと震えていた。
 イシスは蔑むように男性を見下したあと、奥の棺に向かって歩を進めた。イシスの背中は無防備だった。しかも、つい今し方まで凄まじい殺気を放っていたにも関わらず、その背中は嘘のように穏やかだった。
 イシスは奥の棺の前で腰を落とすと、愛しそうな視線を中に送った。涙が頬を伝う。イシスからは、深い悲しみしか感じられなかった。
「わらわのことを永遠に愛してくださっていれば、命までもは取りませんでしたのに………」
 小さな呟きだったが、その声はセーラームーンの耳にも届いていた。悲しげな声だった。
 セーラームーンの目にも、知らず知らずのうちに涙が溢れていた。
 ネフライトもゾイサイトも、既に剣を納めていた。イシスからは戦意を感じないからだ。彼女から感じるのは、深い悲しみだけであった。
 不意に空間が揺らいだ。突き上げるような振動が、室内を襲った。
 直ちにネフライトが動いた。腰を抜かしている男性に当て身を入れて意識を奪うと、ひょいと肩に担ぎ上げた。
 いつの間にか寄ってきていたゾイサイトが、イシスの背中を見つめたまま茫然としていたセーラームーンの手を引いた。
「脱出するよ、セーラームーン(プリンセス)。この基地は崩れる」
「でも、イシスが………!」
 セーラームーンは棺の前のイシスを見やる。彼女は動こうとはしなかった。
「イシス!」
「セーラー戦士よ………」
 視線を柩に向けたまま、イシスは呼び掛けてきた。
「ひとつ、言い忘れていたことがある」
「なに?」
「“ラピュタ”には、聖櫃(アーク)があると聞く」
聖櫃(アーク)?」
「そうだ。そこに何が眠っておるのか、わらわにも分からぬ。たが、大司教はその封印までをも解こうと考えておる」
 セーラームーンは肌が粟立つのを感じていた。聖櫃(アーク)に封印されている者というのは、もしすると………。
「先にそなたが思い当たったのは、そちらの方かもしれぬ。大司教が復活を目論む者と、聖櫃(アーク)に封印されし者は、全く別の者。同時にふたつと相対(あいたい)するのは、容易ではないぞ」
「イシス。“ラピュタ”はどこにあるの!?」
「“ラピュタ”はそこにあって見えぬもの………」
「どういうこと!? お願いイシス。教えて!!」
 声を張り上げたが、それっきりイシスから答えは返って来なかった。。

 砂塵が舞っていた。
 セーラームーンたちの脱出後間もなく、イシスの基地は砂漠に埋没した。彼女の意志がそうさせたのか、それとも偶発的な事故なのかは、今となっては分からなかった。セーラームーンが必死の説得を試みたが、イシスは遂に棺の前からは動かなかった。
「“ラピュタ”の場所を聞けなかった………」
 イシスが口にした衛たちを送ったであろうその場所が、いったいどこにあるのかは遂に分からなかった。
「教えてくれるとは、思わなかったけど………」
 ゾイサイトが残念そうに呟いた。ふりだしに戻ってしまったわけだ。
「『そこにあって見えぬもの』って言葉が気になるね。ヒントをくれたようにも思うけど」
「分かんないわよ、それだけじゃ」
 セーラームーンは落胆したように肩を落とした。
聖櫃(アーク)に封印されているのは、ヴァルカンだと思う?」
「分からないね。だとすれば、“ラピュタ”さえ見つかれば一石二鳥のような気もするけど、そう上手くいくかどうかは疑問だね。だけど………」
 言い掛けて、ゾイサイトはネフライトを見た。魔法陣によって何処かへ飛ばされたセーラー戦士たちが、“ラピュタ”に運ばれた可能性は高い。その中には、セーラーサンが含まれている。そして、“ラピュタ”には何者かを封印した聖櫃(アーク)がある。
「なに? 何を言い掛けたの?」
「いや、厄介なことになりそうだなって………」
 ゾイサイトはその場をそう言って取り繕った。今はまだ、セーラームーンに話す時ではない。
「とにかく、ここが地球のどこになるのかが分からなければ、次の行動に移れない。人が生活をしている町を探そう」
 男性を肩に担いだ姿勢のまま、ネフライトは言った。
 セーラームーンの知らないところで、事態は最悪の方向に動いているのかもしれなかった。