T・A女学院の攻防
「シールドが張られたわ!?」
T・A女学院を外側から監視していた“クラウン”地下司令室のメンバーは、ルナの上擦った声に緊張した。
「罠か!?」
すぐさま反応を示したのは、衛だった。ルナの正面にあるディスプレイを、身を乗り出して覗き込む。ディスプレイには、T・A女学院の校舎が映し出されていた。正門からの正面の映像だった。
「可能性は高いな。やつらも馬鹿じゃない。俺たちが仲間を救出に来ることぐらいは、予想していただろう」
アポロンは淡々と言った。
「かなり強力なシールドのようだな」
衛は唇を噛む。
「見た目は変わらないけど………」
衛と一緒にディスプレイを覗いた操は、怪訝そうな表情で衛の横顔を見た。
「精神波でのバリアだ。見た目だけでは分からない」
説明してやる衛だったが、ディスプレイから目を離すことはない。
その下で、ルナがキーボードをペタペタと叩いている。人の姿の方が、パソコンは扱いやすいのだろうが、ルナにはいらぬ心配のようだった。人の姿に戻ることができないアポロンに、遠慮しているのかもしれなかった。最近のルナは、ネコの姿でいるときの方が多い。
ルナが実に器用にキーボードを扱ってみせると、程なくディスプレイの映像が切り替わる。
T・A女学院の敷地に、グリーンのドーム状のバリアが重ねられている。精神波のバリアに色を付けて、分かりやすく表示したのである。
「バリアは学院全体に張られているわね。想像以上に強力よ」
ルナは言いながら、ディスプレイを覗き込んでいる一同に目を向けた。ディスプレイの左下の一画に小さな窓が開き、細かな数値を打ち出している。
「まずいな………」
衛が小さく呟いた。
「心配するなって、俺が破ってやるよ!」
十番高校に張られた強力な結界を破っている兵藤が、自信満々に言ってきた。
「十番高校に張られた結界とは、別の種類の結界だわ。強度もかなり違う。優に十倍はありそうね………」
画面に弾き出されている数値を見ながら、ルナはひどく事務的な口調で言った。再びキーボードを操作し始める。衛が神妙な顔つきで、画面に次々と現れる数値を見つめている。
「けげっ!」
真剣にディスプレイを見つめているルナと衛の横で、兵藤は素っ頓狂( な驚きの声を上げていた。)
十番高校の結界を抜けるのには、実はかなり苦労をしているのである。その時の十倍の強度があると言われれば、自信家の兵藤も慌てずにはいられない。無理かも知れないと自問しながら、考え込んでしまった。
「無理なら無理だって、初めから言っといた方が、あんたの身のためだと思うよ」
兵藤の背中に、夏恋が声を掛けた。
「ふ、ふざけるな! 俺に破れない結界なんてない!!」
夏恋にそう言われれば、兵藤とて強気な発言をせざるを得ない。元来彼は、人一倍負けず嫌いだった。
「そう豪語しているけど、みんなどうする?」
まるで意地っ張りの子供のように鼻息を荒げる兵藤を見て、溜息を付きながら肩を竦めると、夏恋は一同を見渡した。
「おそらく、やつらはT・A女学院で、俺たちを一網打尽にするつもりだろう。まだ別の罠を仕掛けている可能性がある。ここは、しばらく様子を見た方が得策だと思うな」
ディスプレイを覗き込んでいた衛は、姿勢を正すと、振り返って言った。こんな状態であっても、衛は非常に冷静だった。
「そうね。まだ動くときじゃないわ」
ルナの言葉がそれに続く。ルナは再びキーボードを操作した。
T・A女学院がコンピュータ・グラフィックス映像に切り替わる。学院内に、赤い光点が重ねられた。殆どの光点が、一カ所に集中している。
「生命反応よ」
質問される前に、ルナは光点の意味を説明していた。
「凄い数じゃないか」
兵藤が眉を顰める。
「ええ。レイちゃんやほたるちゃんの話から判断をすると、今日のT・A女学院内には殆ど学生がいないはずだから、これほどの生命反応があるというのはおかしいわ」
「さらった学生たちを、一時的に学院に戻した可能性があるわけだ」
アポロンは言うと、ひとりで納得をしたように何度か頷いた。
「うさたちにとっては、不利な条件だな………」
「どうして?」
衛が深刻な表情をみせると、操はすぐさま疑問を抱いて訊いてきた。
「学生たちを盾に取られたら、うさたちは攻撃ができない。もし仮に、そうでなかったとしても、やはり学生たちがいたのでは、思い切って戦えないだろう」
衛の考えは的を得ていた。確かに、これだけの学生がいたのでは、十番高校の場合と同様、大規模な戦闘をするわけにはいかなかった。学生を巻き添えにするわけにもいかないし、校舎を破壊するような攻撃技も使えない。そうでなくても、T・A女学院は、以前のセーラー戦士とイズラエルとの戦いで、手酷い被害を被( っている。これ以上壊されたら、二学期の授業全体に響く。)
「日暮隊長は、まだ十番高校にいるかしら………?」
「どうだろう………。連絡をするのか?」
自衛隊の日暮隊長のことを口にしたルナに、衛は聞き返した。
「いざというときのために、連絡だけはしておいたほうがいいと思うわ。あのシールドさえ破れれば、彼らに学生たちを守ってもらえるかも………」
「なるほど、いい考えかもしれない」
アポロンは頷いた。
「よし、分かった。日暮隊長のところには、俺と操で行って来よう」
衛の決断は素早かった。
講堂にいるうさぎ、ほたる、もなかの三人は、既にぐるりを完全に包囲されていた。
正常だと思われていた学生たちは、漆黒の法衣を纏( った男の一声で豹変してしまった。輝きを無くした虚ろな瞳で、うさぎたち三人をぼおっと見つめている。背筋が寒くなるような光景だった。)
逃げ場はない。ただ一カ所の出入り口は、数人のシスターで固められてしまっている。ほたるたちを襲った、ダンシング・シスターズだと思われた。
学生たちは包囲網を、じりじりと狭めてくる。
壇上の法衣の男は、映画でも見ているかのように、薄ら笑いを浮かべながら傍観していた。
「どうせ正体がバレてるんだから、強行突破するしかないわね………」
うさぎはチラリとほたるに目を向ける。彼女も同じ考えだったらしく、うさぎの視線を受けると、無言で頷いてみせた。
「ムーン・エターナル・メイク・アーップ!!」
うさぎが変身の呪文( を声高々に叫ぶと、ほたるともなかもそれに続いた。)
眩い光に包まれて、三人のセーラー戦士が出現した。
「ふふふふふ………。なるほど、よいパワーを持っている。十三人衆ごときでは、勝てぬわけだな………」
漆黒の法衣の男は、眩しげに三人のセーラー戦士を見つめる。
「あなたは何者!?」
りんと響きわたる声で、セーラームーンが問うた。
「儂か? 儂の名を訊いてどうする?」
「………!」
「ふふふ………。まあ、よい。知りたければ教えてやろう。儂の名はホーゼン。ブラッディ・クルセイダースを束ねる者………」
その鋭い眼光でセーラームーンを睨み据えたまま、漆黒の法衣の男は名乗った。
「親玉が出てきたのなら話が早いわ………。ここであなたを倒せば、組織は崩壊するわね!」
「ほっ! 儂をこの場で倒すと言うのか? 勇ましいことだ。できるものならば、やってもらいたいものだな………」
ホーゼンは言うと、愉快そうに笑って見せた。まるで子供の悪戯を見て楽しんでいる大人のように、さも愉快そうに。
「この状況が分かってものを言っているのか? こやつらは人質みたいなものなのだぞ」
ホーゼンは周囲の女生徒たちに目配せをする。それは暗に、自分の意志ひとつで彼女たちをどうにでもできるという意志表示だった。
彼女たちを傷つけたくなければ、手出しをするなと言っているのである。
「全面降伏しろっていうの………?」
サターンの小さな呟きは、ホーゼンの耳には届かない。
ホーゼンに操られている女生徒たちは、セーラー戦士たちを取り囲んでいる輪をじりじりと狭めてくる。
セーラームーンがいきなり仕掛けた。エターナル・ティアルを実体化させると、スターライト・ハネムーン・セラピー・キッスを周囲に放射した。もちろん、衝撃波は押さえてある。浄化のパワーだけを放出したのだ。
銀水晶の強烈な浄化エネルギーが、講堂全体に注がれる。そのパワーを受け浄化された学生たちは、バタバタとその場に倒れ落ちる。
「ヌッ!? その力は、まさか銀水晶か………!? そうか、お前が月の王国の王女の生まれ変わりなのだな………!?」
驚きに少々目を見開きながら、ホーゼンはセーラームーンを見つめた。形勢を逆転され、多少動揺しているようにも感じられた。
「プリンセス・セレニティを知っている!? お前は何者だ!?」
サターンはサイレンス・グレイブを構え、きりりとした視線をホーゼンに向けた。月の王国のことを知っているとすれば、ただ者ではない。過去に因縁があった者である可能性が非常に高い。
「月の王国の王女か………。噂通り、素晴らしいパワーだ。そうか、セーラー戦士というのは、月の王国の戦士の転生した姿だったのか………。なるほど、ならばそのパワーも頷けるというもの………」
ホーゼンは口元に笑みを浮かべる。
「『種』を植え付けて見たくなったぞ………!」
舐めるようにセーラームーンの全身に、視線を這わせた。
「………!」
その視線に防衛本能を働かせたセーラームーンは、両腕で胸を隠すようにした。背筋に冷たいものが走った。
「やい、やい! クソじじい! 嫌らしい目でセーラームーン( を見るな!!」)
食ってかかろうかという勢いで、セーラーサンがその視線の間に割り込んできた。両手を目一杯広げ、華奢な体でセーラームーンを隠そうとしているのだ。
「ふん。小娘が、威勢がいいな………」
ホーゼンは鼻先で笑い飛ばした。セーラーサンなど、眼中にないと言いたげだった。
「おしゃべりはそこまでよ!!」
業を煮やしたサターンが、サイレンス・グレイブを掲げて舞い上がった。宙で一回転すると、ホーゼン目掛けて死神の鎌を振り下ろす。
「ふん!」
ホーゼンは片手でそれを受け止めた。しかも刃の部分を掴んでいるというのに、一滴の血も流していない。
「むん!」
サイレンス・グレイブを掴んでいる右手を振り回すと、出し抜けにそれを放した。振り回されて方向感覚を失ったサターンが、きりもみ状態で投げ出される。
ガードの体勢を取れぬまま、サターンは講堂の壁に激突する。
「サターン( !」)
セーラームーンは僅かに視線を向け、サターンを気遣った。セーラーサンが向かっているのが視界に飛び込んできたため、再びホーゼンに視線を戻した。サターンはセーラーサンに任せればいい。自分は前方の法衣を纏( った男に集中すればいい。そう判断した。)
エターナル・ティアルを手に、油断なく身を構えた。
入り口付近に陣を構えていたダンシング・シスターズが、じりじりと迫ってきているのを背中で感じ、セーラームーンは更に緊張をした。
(どうする? このままでは、やられてしまうわ………)
自問してみた。
確かにこの状態は非常に不利である。足下に気を失った学生たちが倒れているこの現状では、破壊力のある攻撃技を使うわけにはいかない。もちろん、講堂を破壊してしまうわけにもいかないので、例え水平方向にでも攻撃技を飛ばすわけにはいかなかった。
しかし、このままでは本当にやられてしまう。ここにいる三人は、体術による攻撃は不得意である。格闘戦を仕掛けることもできない。
(壁ぐらいは大目に見てもらうしかないわね………)
とにかく、自分たちの有利な戦闘フィールドに移動しなければならない。壁を破壊してでも、講堂から出なければならなかった。
「ムーン・プリンセス・ハレーション!!」
セーラームーンは振り向きざまハレーションを放った。
襲い来る数人のシスターを蹴散らし、ハレーションは講堂の入り口付近を周囲の壁ごと破壊した。
「セーラーサン( 、サターン) ( ! 脱出するわよ!!」)
壁に激突してダメージを受けたサターンだったが、動けないほどではない。セーラーサンに助け起こされると、ふたり同時に破壊された講堂の入り口に向けて身を翻した。
「逃がすわけにはいかない!!」
ホーゼンが叫ぶと同時に、急激な違和感が体を襲った。
「いけない! 結界だわ!!」
サターンは顔色を変えた。自分たちの周囲に、小型の結界が張られようとしている。捉えられたら最後、内側から破ることは不可能だ。
バッ!
閃光が迸( った。)
突如出現した強烈な閃光弾が、三人を捉えんと襲ってきた結界球を、ものの見事に弾き飛ばした。
「なにやつ!?」
今度はホーゼンが表情を変える番だった。自分の結界球を弾き飛ばした閃光に対し、怒りの形相で睨み付ける。
床に激突した閃光弾は、やがて光を失い、中から片膝を付いた人型の物体を出現させる。人型の物体はおもむろに立ち上がると、黄金の長い髪を翻( して振り向いた。)
真紅の瞳が獲物を狙う野獣の如く、ホーゼンに向けられている。
「ギャラクシア!」
セーラームーンの表情が明るくなった。この危機に現れたのは、黄金のセーラースーツに身を包んだ、セーラーギャラクシアだったのだ。
「言ったはずだ。こんな作戦は無意味だと!」
わざわざT・A女学院の制服に着替えて乗り込んできたうさぎたちだったのだが、その行為は全くの無意味だった。ブラッディ・クルセイダースは、初めから彼女たちが乗り込んでくることを予期して、罠を張って待ちかまえていたのだ。正にうさぎたちは、「飛んで火にいる夏の虫」状態だったわけだ。
「おのれ!」
ホーゼンは吠えると、セーラームーンたちへ向けて、幾つもの球体を次々と打ち出した。
「外へ出るぞ!」
叫ぶや否や、手近の壁を破壊して、ギャラクシアは外へと飛び出した。
セーラームーンたち三人は、先程のハレーションで破壊した入り口から外へ出る。
「!」
講堂の壁を更に粉砕しながら、ホーゼンの放った球体はセーラームーンたちに襲いかかる。
「あ〜あ。講堂が滅茶苦茶………」
サターンの嘆く声を背後に聞きながら、セーラームーンは月光障壁( を張って球体を弾き飛ばした。)
四人のセーラー戦士は同時に振り返ると、講堂をキッと睨み据える。
相変わらずの無表情のまま、ダンシング・シスターズが疾風の如く飛び出してきた。
「ザコには用はない!!」
ギャラクシアのギャラクティカ・クランチが、三人のシスターを吹き飛ばす。負けじとサターンが、サイレンス・バスターで二人のシスターを消滅させた。
「やはり、シスター程度では歯が立たぬか………」
劣勢であるにも関わらず、ホーゼンは落ち着いた面もちで講堂から歩み出てきた。ゆっくりとした足取りで、背後にふたりのシスターを従えていた。
「観念なさい!!」
セーラームーンがエターナル・ティアルを突き出す。シスターはもう襲ってはこない。どうやら背後に従えているふたりしか、残ってはいないようだった。
「お前たちは、まだ自分たちの置かれている状況が分かっておらぬようだな………」
呆れるほどに落ち着いた、ホーゼンの声であった。絶対的に不利な状況であるにも関わらず、焦っている様子は微塵も感じない。
「よくまわりを見てみるがいい。お前たちは既に、籠の中の鳥であることに気づくはずだ………」
「なに!?」
ギャラクシアは眉を吊り上げると、周囲に視線を走らせる。
同じように周囲を観察していたサターンが、
「あいつの言っていることは、どうやら本当のようです。いつの間にか、T・A女学院のまわりには、強力なシールドが張られているようです」
淡々とした口調で説明をした。危機的状況に陥ると、サターンは決まってこのような言い方をする。かつてのセーラーサターンがそうであったように、非情なまでの冷静さが表に出てくるのである。
「シールドは破れるの?」
セーラーサンが不安げに尋ねる。サターンは無言で、首を左右に振った。
「儂( のシールドは、先のメイムの結界とは比べものにならぬほど強力じゃ。外からは、絶対に破れはせん………。もちろん、内側からもな………。しかも面白いことに、他の輩も儂) ( と同時に結界を張ったようだ。二重に張られた結界は強力じゃぞ」)
セーラーサンの声が聞こえたのか、ホーゼンは喉の奥でくぐもった笑いを発しながら、余裕の表情で四人のセーラー戦士を見据えた。ホーゼンの言う「他の輩」とは、マーズと交戦中のミッシェルのことだ。
ホーゼンは四人のセーラー戦士に舐めるような視線を這わせると、
「観念するのは、お前たちの方じゃ………」
口元に薄ら笑いを浮かべた。
「お客さんが来たようだ」
大道寺の声に、せつなとまことは職員室の入り口に目を向けた。
数人のシスターが音もなく職員室に入ってくる。能面でも被っているかのように全くの無表情で、滑るように移動する。
「チッ! ザコか………」
大道寺はいささか不満そうに舌打ちをした。
「ザコですまなかったな………」
廊下で声が響く。ドスの利いた鋭い声だった。
大道寺はその声を耳にしただけで、声の主の技量を察知した。
「厄介なやつがいるようだ」
せつなとまことにだけ聞こえるように小さな声で言うと、再び舌打ちをする。しかし、今度の舌打ちは先程のものとは意味合いが違う。
「セーラー戦士の中に、男がいるとは意外だった………」
壁の陰から、男が姿を現した。見るからに凶悪そうな顔つきをした、屈強の男である。スプリガンだ。
「セーラー戦士の中にって、言い方には語弊があるぜ。俺はセーラー戦士じゃない。それとも、見てみたいのかい? 俺のセーラー戦士姿………」
「気色の悪いことを言う」
頬をピクリとさせ、スプリガンは言う。余程見たくないのだろう。(もちろん、筆者も見たくはない)次いで、スプリガンはせつなとまことに目を向ける。
「ほう。けっこういい女がいるじゃないか」
「キミのことらしいぜ、せつなちゃん」
「そりゃ、どうも………」
せつなは苦笑いをする。
「セーラー戦士とお供の男が、女子校の職員室なんぞで何を家捜ししているんだ? セールスだったら、お断りだぞ」
スプリガンは牙にも似た歯を見せて、ニタリと笑った。
「この状況で、随分と余裕じゃないか………。三体一だぜ………」
大道寺のその言葉には、ダンシング・シスターの数は含まれていない。
「シスターはものの数ではないか………。確かに、そうだろうな………。しかし、俺の力を甘く見てもらっては困る」
スプリガンは平然としている。自分の戦闘能力に、かなりの自信を持っているのだろう。
「おしゃべりはここまでだ。行くぞ………! せいぜい、楽しませてくれよ」
だしぬけに、スプリガンは気合いを放った。
凄まじい気合いは衝撃波となって、三人に襲いかかる。
大道寺は辛うじてガードをしたが、せつなとまことは間に合わなかった。衝撃波に弾き飛ばされ、粉砕された窓ガラスと共に、外にほおり出されてしまう。
「せ、制服が………!?」
細かいかまいたちを伴っていた衝撃波は、弾き飛ばされたせつなとまことの制服を微塵に粉砕してしまう。
肌を剥き出しにされたふたりは、下着一枚の姿となって宙を舞う。そのふたりに、更に容赦なく衝撃波が襲い掛かる。下着さえも粉砕されようとしていた。
「メイク・アーップ!!」
きりもみ状態の中、ふたりはセーラー戦士へと変身を遂げた。
「ちっ! 惜しかった………」
残念そうに舌打ちしながら、大道寺がふたりのセーラー戦士のもとへと駆けつけた。幸いにも、彼の呟きは、ふたりの女性の耳には届かなかった。
ふたりの注意は、スプリガンに向けられていたからだ。
「まったく! D・Jにとんだサービスをするところだったわ!」
職員室の方を睨みながら、プルートは頬を膨らませた。
再び放った衝撃波で、職員室の壁を完全に破壊すると、ゆっくりとした足取りでスプリガンが姿を現した。噴煙に混じって、ダンシング・シスターズも踊りながら出現する。
校舎の別の位置からも、凄まじい爆発が起こる。職員室のちょうど反対側の位置だと思えた。
爆音と共に噴煙があがる。
「あっちでも始まったようだな………」
大道寺は上空を仰ぎ見た。
何かが高速で移動しているのが確認できた。
「行くよ、ディモス!」
号令を掛け、マーズはファイヤー・ソウルを連発した。
奇怪な踊りを狂ったように踊っているダンシング・シスターズは、巧みにそれを躱( した。無表情のまま、ふたりに掴みかかってくる。)
「!」
一体のシスターの足を払い転倒させると、マーズは次にファーザー・ミッシェルにタックルを仕掛けた。
「うお!?」
まさかマーズが、タックルを仕掛けてくるなどとは予想していなかったのだろう。ミッシェルはモロにタックルを食らい、後方に弾き飛ばされた。廊下の壁に、したたかに背中を打ち付ける。
一方、ディモスの方は、マーズによって転倒させられたシスターを踏み台にしてジャンプすると、宙を舞いながらファイヤー・ソウルを連発、ミッシェルを弾き飛ばした直後のマーズの横に、並ぶように着地した。
「外に出るわよ!」
言うや否や、マーズはバーニング・マンダラーで廊下の壁を破壊、中庭へと飛び出した。
「逃がしませんよ!」
同じく壁を破壊して表に出たミッシェルは、触手のような腕を伸ばして反撃してきた。その背後から、十人のダンシング・シンターズが一斉に躍りかかってきた。
「手加減している余裕はないわね!」
マーズとしても、そう判断せざるを得なかった。パワーを押さえて戦っていたのでは、先のディモスたちの二の舞になってしまう。
「蛇火炎( !!」)
砂漠のガラガラヘビが獲物を狙うがの如く、幾筋もの炎がダンシング・シスターズに襲いかかる。
直撃を浴び、半数が灰になった。
「ファイヤー・ボム!!」
ディモスが小型の炸裂火球を投じる。集団で飛び込んで来たシスターたちの中央で火球は破裂し、三人が戦闘不能になった。
残りのふたりは、マーズがバーニング・マンダラーで仕留めた。
「なるほど、お強いですね………」
ミッシェルは涼しい表情で、マーズを見やった。
突如、空間が震動した。
どこかで強烈な衝撃波が発生した震動だと思えた。
「あなたのお仲間も、戦闘状態に入ったようですね」
ミッシェルは言う。
この震動だけでは、だれが戦闘に入ったのかは分からない。講堂に入ったうさぎたちのグループなのか、はたまた職員室に向かったはずのせつなたちのペアなのか、今の状態では判断できなかった。
「さて、あなた方も大人しく捕まっていただきましょうか」
ミッシェルは触手のような腕を伸ばしてきた。
マーズは火炎障壁( で牽制すると、右へ飛んだ。同じく左へ飛んでいたディモスとの連携で、ミッシェルに肉迫する。)
しかし、ミッシェルも動じない。肉迫してきたふたりを衝撃波で弾き飛ばすと、体勢の悪かったディモスに向けて、腕を伸ばしてきた。
「バーニング・ウェイブ!」
ディモスの拳が地面を叩くと、灼熱の炎がミッシェル目掛けて地面を走る。ディモスは襲ってきた腕ではなく、本体の方を狙ったのだ。
意外な反撃に、さしものミッシェルも肝を冷やした。伸ばした腕を途中で戻し、炎を避けるために上空にジャンプした。
そのタイミングを逃すマーズではない。
格好の標的となったミッシェルに、必殺のフレイム・スナイパーを放つ。
狙い澄ました炎の矢は、的確にミッシェルの心臓を貫いていた。
「ぐおぉぉぉ!!」
ミッシェルは断末魔の悲鳴をあげる。突き刺さった炎の矢は激しく炎上し、ミッシェルの体を焼き尽くす。
「まだだぁ!!」
全身を炎で焼かれながら、ミッシェルは特攻を仕掛けてきた。普通なら即死の状態であるはずなのだが、やはりそこは普通の普通の人間( 以上の生命力を持っているようだ。)
「ファイャー・ヒール・ドロップ!!」
肉薄してきたミッシェルに、マーズは体術系の技をお見舞いした。炎の踵が、ミッシェルの脳天を直撃する。
仰け反ったところに、ディモスの特大のファイャー・ソウルが直撃した。
「うぐぁぁぁ!!」
炎の連続攻撃を受けたミッシェルは、ついに断末魔の悲鳴をあげた。
悲鳴の尾を引きながら、ファーザー・ミッシェルは灰となっていった。
ミッシェルを倒したマーズとディモスは、同時に上空に舞い上がった。先程の衝撃波が放たれた位置を、肉眼で確認するためだ。ミッシェルを倒したと言えども、まだ戦いが終わったわけではない。別の場所で戦っているであろう、仲間たちの援護に回らなければならないのだ。
二カ所で噴煙があがっている。講堂付近と職員室の脇だ。
どちらも戦闘中だと思える。
「ディモスはプルート( たちのところへ! あたしはセーラームーン) ( のところへ行くわ!」)
瞬時に状況を把握したマーズの決断は、素早かった。