凱旋門の戦い
アルテミスとヒメロスのふたりが、マゼラン・キャッスルからの使者───アンテロスとマクスウェルのふたりと合流したのは、五日前のことだった。美奈子が敵の手に堕ちてから、既に十日が経っていた。“毛むくじゃら”に変身して潜入した、エロスからも一向に連絡が入らない。
アルテミスたちは、次第に焦り始めていた。
「傷は痛みますか?」
医者が止めるのも聞かず(全治一ヶ月と診断されていた)に、強引に退院してしまったアルテミスは、ヒメロスたちとともに美奈子の行方を探っていた。頻繁に出現する“毛むくじゃら”を追って、フランス中を駆け巡っているのだ。だが、残念ながら美奈子の行方の手掛かりになるような情報は、何も得られなかった。“毛むくじゃら”を操っている者が、下級兵士すぎるのだ。上からの命令で、何も知らずに“毛むくじゃら”を操っているだけなのだ。自分の本拠地の場所すら知らないし、“毛むくじゃら”を操る本当の目的も知らない。
「大丈夫ですか? 少し休まれた方が………」
額に脂汗を浮かべながら、何人目かの下級兵士を倒したアルテミスに、アンテロスは再び声を掛けた。
美しいブロンドの髪をショートボブにした、小柄な女性である。動きが素早く、光線技を得意としている戦士だ。スレンダーなボディに、ピッタリとフィットした戦闘服に身を包んでいる。美しいボディラインをしていたが、男から見れば、多少物足りなさを感じるラインではあった。
「怪我人は病院で大人しくしていればいいものを………。無理をしたって、何の得にもならないぞ。………はっきり言わせてもらうと、足手まといだ」
アルテミスの背後で、棘のある声がした。
「なにぃ!」
アルテミスは気色ばんで、背後を振り返った。体格のいい青年が、冷ややかな眼差しでこちらを見ていた。如何にも体育会系といったがっしりとした体格と、百八十センチはあろうかという長身、そしてややトーンの低い声は、人を威圧するには充分すぎる材料であった。
「せめてネコの姿に戻っていろ。少なくとも、その方が運びやすい」
体格のいい青年は、アルテミスに畳み掛けるように言った。アルテミスと同様の長髪が、真夏の暑さにあって、やや涼しげな風にさらりと靡く。
「余計なお世話だ! 俺は荷物か!?」
「まともに戦えぬのだから、荷物も同然だ」
「やかましい!! ごちゃごちゃ言うな! だから俺はお前の力などはいらないと言ったんだ、クンツァイト!」
アルテミスは噛み付かんばかりの勢いで怒鳴った。
「その呼び方はやめてくれ。今の俺は清宮と言う名だ」
クンツァイト───清宮は、不愉快そうに顔をしかめた。
清宮がアルテミスとヒメロスの前に現れたのは、八日も前のことだ。アルテミスが入院していた病院に、突如として現れたのである。
アルテミスは清宮の顔を見るなり、彼の内に潜んでいたクンツァントの姿を確認した。星の輝きが確認できたのである。普通の人間にはない、強烈なスター・シードの輝きだった。この男は、プリンス・エンディミオンの四人の親衛隊のひとり、クンツァイトの転生した姿だと感じたのだ。そして、それは正しかった。
清宮はアルテミスに会ったことで、その封印されていた記憶が蘇った。自分がプリンス・エンディミオンの親衛隊のひとり、クンツァイトであることを思い出したのだ。
クンツァイトとしての記憶を取り戻した清宮(斉藤)は、何故自分が美奈子のことを必要以上に気に掛けていたのか、そこで初めて理解した。十番街に現れ美奈子を捜そうとしたのは、自分の中に封じ込められていたクンツァイトの想いが、美奈子を求めたからに他ならなかった。
そして清宮は、パーラー“クラウン”でまことと出会った。まことから美奈子がパリにいることを聞かされた清宮は、居ても立ってもいられなくなり、とうとう現地にまでやって来てしまった。そして、自分の勘だけを頼りに、アルテミスの入院している病院に現れた。アルテミスに合い、清宮は全てを理解した。
美奈子が、プリンセス・セレニティを守る四守護神のセーラー戦士、セーラーヴィーナスであるということを。自分がプリンス・エンディミオンの四親衛隊のひとり、クンツァイトであると言うことを。
「………しかし、妙だと思いませんか?」
“毛むくじゃら”から人間の姿に戻った女の子を解放していたヒメロスが、ゆっくりと立ち上がるとアルテミスに向き直った。感慨に耽っていた久遠寺は、その言葉で現実に引き戻された。
「確かにな………」
アルテミスは答える。
「やつらは無駄なことをしすぎる………。この程度の下級戦士では、俺たちには歯が立たないことは、充分に分かっているはずだ」
“毛むくじゃら”を操っている戦士が、下級戦士だということも納得できない。これでは倒してくれと言っているようなものなのだ。下級兵士を倒し、解放した“毛むくじゃら”の数は、一週間の間に五十人は下らない。
「陽動か………」
清宮が頬をぴくりとさせる。
「やつらの本隊は、既にフランス、いえ少なくともパリにはないのでは………?」
その言葉を継ぐように、ヒメロスは言う。
「ありえるな………」
アルテミスは同意した。そう考えればつじつまが合うのだ。最近出没している“毛むくじゃら”たちは、カモフラージュにすぎないと考えると、自分たちを襲ってくる戦士が下級戦士であるということも頷ける。自分たちを足止めしていると仮定すれば、全てのつじつまが合う。
「俺たちが調子に乗ってザコたちを倒している間に、本隊は別のところに移動したと考えるのが妥当だな」
清宮は淡々とした口調で言った。
「どこに行ったんでしょう?」
尋ねたのは、マゼラン・キャッスルからアンテロスとともに来た戦士、マクスウェルだった。マクスウェルは剣技に優れた魔法剣士である。実直そうなその青年剣士は、非常に口数が少なかった。
「それが分かれば苦労はしない」
無視してもよかったのだが、清宮はマクスウェルの有り触れた質問に反射的に答えていた。
キャッスルから来たふたりの戦士は、確かに優秀な戦士ではあるが、如何せん戦闘の経験が浅い。平和なキャッスルにいたのだから仕方のないことなのだが、戦術などなきに等しい戦い方をする。今までのようなザコ相手なら、それでも通じていたのだが、レベルの高い相手が出てきたときには、おそらくかなりの苦戦を強いられるだろう。そう言った意味では、アルテミスがまともに戦えない現在の状況では、清宮の存在は心強いと思えた。清宮なら、戦力としてきちんと計算できる。
「ん!?」
アルテミスは顔を上げた。パトカーのサイレンが耳に届いてきた。それほど遠くはないが、近いとも言えなかった。
「また“毛むくじゃら”が出たかな………」
「可能性はあるな」
清宮も耳を澄ました。複数のパトカーのサイレンが聞こえる。
「よし! 行ってみるか」
「待ってください! 彼女たちはどうしますか?」
サイレンの聞こえた方向に走り出そうとしたアルテミスたちを、ヒメロスが呼び止めた。“毛むくじゃら”から人間に戻った女の子たちは、意識を失って倒れたままなのだ。
女の子の数は四人。例によって、全員全裸である。このまま置き去りにしていくわけにはいかない。
「アンテロスとふたりで、処理にあたってくれ。後で合流してくれればいい」
「分かりました」
アルテミスの指示に、ヒメロスは頷いた。
パトカーのサイレンを追って、アルテミス、久遠寺、マクスウェルの三人は、シャンゼリゼ通りへと飛び出した。
数台のパトカーが猛スピードで目の前を横切る。そのパトカーの流れに逆らって、パリの人々が血相を変えて逃走してくる。
「これは、ただごとじゃないぞ!」
人々の逃げまどう様子が今までとは違うと感じたアルテミスは、表情を堅くした。“毛むくじゃら”が出現したのとは、少しばかり状況が違うように感じられた。
「見ろ! アルテミス!」
清宮が凱旋門がある方角を、指で示した。巨大な凱旋門が見える。〈アブキールの戦い〉の浮き彫りの辺りで、閃光が煌めいた。
「何者かが戦っている!?」
直感だった。確証は何ひとつない。煌めく閃光を見た瞬間に、そう感じただけだった。
「行くぞ!」
「待て、アルテミス! お前は戦えない。俺が調べてくる」
「心配はいらない!」
アルテミスは清宮の制止を振り切って、凱旋門に向かって走り出してしまった。
意地である。
自分は足手まといにはならないと、証明して見せたいのである。体を動かす度に傷口が痛んだが、気遣っている場合ではなかった。
アルテミスは確かにレベル・ダウンはしているが、マゼラン・キャッスルから来たふたりの戦士に比べれば、それでも頼りになる。そのことは、ヒメロスも清宮も分かってはいると思われたが、やはりアルテミスとしては戦って見せなければ、自分が納得しないのだ。
「ちっ! 分からず屋め!!」
舌打ちすると、清宮もアルテミスのあとを追った。清宮の体が光に包まれる。走りながらクンツァイトの姿へと変身する。
シャルル・ド・ゴール・エトワル広場には、十台を越えるパトカーが集結していた。そのうちの何台かは炎上している。
警官たちが凱旋門を見上げて、何ごとか喚いている。
ドドーン!!
空気が振動した。上空で強烈なエネルギー同士がぶつかり合ったのだ。間違いなく、上空で戦闘が繰り広げられている。
炎上しているパトカーは、おそらくその流れ弾に当たってしまったのだろう。
「ちっ!」
クンツァイトはジャンプした。地面から見上げていたのでは、状況が分からない。
次いで、アルテミスとマクスウェルがジャンプした。
五十メートルの距離を一気に飛び上がり、凱旋門の先端部へと飛び乗った。
周囲を見回した。
「ん!?」
エッフェル塔が視界に入ってきた瞬間、何かが目の前に落下してきた。
空中から落下してきたそれは、人間だった。しかも女性である。奇抜な格好をしている。一目で普通の人間ではないことが分かる。
背中をしたたかに打ち付けたその女性は、苦悶の表情で起き上がると茫然と自分を見ている三人の男たちを視界に捕らえて、顔色を変えた。
「あんたたちは何をしているの!?」
噛み付くような勢いで詰め寄ってきた。
「一般人は避難するように言ったでしょう!? こんなところで馬鹿面下げてないで、とっとと避難してよ! 気になって、あたしが思うように戦えないじゃない!!」
眉を吊り上げ、オーバーなゼスチャーを交えて、三人に避難しているように命令口調で言った。
それにしても変わった格好をしていた。大きく分けて、胸と腰の部分しか布で覆っていない。肩紐のない胸当ては、申し訳程度に胸の先端を隠しているだけで、彼女の豊かなふたつの膨らみを覆うには、いささか生地が足りないようで、苦肉の策のように鳥の羽を思わせるリボンを、飾りとして胸元に付けている。背中に行くにつれて細くなっている胸当ては、背中の部分は殆ど紐にしか見えない。
腰の部分は超が付くほどのミニスカートである。しかし、スカートというのは形ばかりで、全くと言っていいほど、スカートの役目を果たしていない。少し動いただけで、下着が見えてしまうのだ。だが、スカートだと思っていたのは、ただの飾りだということがすぐに分かった。彼女がこちらに向けて体を巡らすと、スカートの前の部分がパックリと開いていることが分かった。ハイレグの下着がモロに見える。
セミロングの髪は見事な銀色で、複雑な模様で装飾された真っ赤なカチューシャをしていた。髪の色と同じ、美しい銀色の瞳は、彼女が特別な能力を持った人間であると示しているかのようだった。
「お、お前、露出狂か?」
アルテミスは素直にも、第一印象を口に出していた。
「こ、これがあたしの戦闘コスチュームなんだよ! ほっといてよ!!」
ずばりを指摘され、奇抜な格好をした女性は頬を赤らめた。どうやら羞恥心は持っているようである。露出狂ではないようだ。奇抜なコスチュームであることを、一応は気にしていると見える。
戦闘コスチュームと言っていることから推測すると、彼女がアニメ好きのコスプレギャルでないかぎり、特別な能力を持った戦士だと思えた。
「上にいる連中は何者だ? もしかすると、ブラッディ・クルセイダースの連中か?」
クンツァイトは上空を見上げていた。空中に浮かんだまま、無表情でこちらを見下ろしている鎧を身に纏った騎士がいる。その数、五人。彼女は五人の騎士を相手に戦っていたことになる。
「やつらを知っている!? あんたたちって………」
女性は驚きで目を見開いた。三人の男性の顔を、順に見回した。
「お前の正体を明かせ、敵でないと判断できるなら、手を貸そう」
クンツァイトは、真っ直ぐに女性の顔を見つめた。
「悠長なことは言ってられない! やつらが攻撃してくるわ!!」
「凱旋門の屋上にいるかぎりは、やつらは思い切った攻撃はしてこない。人類の文化遺産を傷つけるようなことをするほど、やつらは下衆な連中ではない。そうでなければ、五人の騎士を相手に、お前が戦えるはずはない」」
一向に攻撃してくる気配のない連中を見上げて、クンツァイトは言った。無防備な状態で、上空の五人の騎士たちを見上げている。
「あたしが五人を相手に戦っていられたのは、あいつらが手を抜いていたからだと言うの!?」
女性は気色ばんで、怒鳴るように言った。怒りの表情でクンツァイトを睨む。
「冗談じゃないわよ!!」
体を反転させ、上空の騎士たちを視界に捕らえると、パワーを集中させた。大気が振動し始めた。かなりのパワーを集中しているようだった。どうやら、クンツァイトの一言は、彼女のプライドを著しく傷つけてしまったようだ。
上空の騎士たちが身構える。女性のパワーの集中を感じ取っているのだ。
「一撃で消して見せるわ!!」
両腕を顔の前でクロスさせ、女性は強烈なエネルギー波を放った。
ドウッという凄まじい響きとともに、エネルギー波は五人の騎士を飲み込んだ。
「どお?」
勝ち誇ったような表情で、女性は背後の男性陣に振り向いた。だが、そこにはいるはずの三人の男たちは、影も形もなかった。
上空で爆音が轟いた。
女性は驚いて顔を上げた。
先程まで背後にいた男たちが、五人の騎士を相手に戦いを繰り広げていた。
「あたしの攻撃が通じなかったの………?」
女性は愕然として、上空を見上げている。その横に、白い革鎧を身に纏った長髪の男が、ふわりと舞い降りた。アルテミスである。
「ボーッとしてるな! キミを味方と判断したわけじゃないが、敵がブラッディ・クルセイダースなら、俺たちも用があるからな!」
早口でそう言うと、再びジャンプする。
「もう! 何だか頭に来るヒトたちだけど、仕方ないわね!!」
悪態を付いて、女性も宙に舞った。
「五人で女ひとりをいたぶって、楽しかったか?」
背後から騎士のひとりの首を締め上げると、クンツァイトは低い声で訊いた。
「が、凱旋門でなかったら、こんなに苦戦はしなかった」
首を締め上げられた騎士は、苦しげに呻くように答えた。だからといって、首を絞める腕の力を弱めるようなクンツァイトではない。
「貴様たちの大将は、なかなか人間ができているな」
「当たり前だ!」
苦しい息の中、それでもその騎士は胸を張って見せた。
「その大将に会いたいのだが、どこに行けば会える?」
「教えるわけにはいかない!」
「そうか!!」
クンツァイトは首を締め上げる腕に、一気に力を込めた。
バキッ!
鈍い音がした。クンツァイトに首を絞められていた騎士の体が、力無くダラリと垂れ下がる。
「手荒いな、お前は」
横にアルテミスが並んだ。失神した騎士を、クンツァイトは他の騎士たちに向かって投げつける。派手な音はしたが、殺してはいない。
騎士は三人に減っていた。いつの間にやら、マクスウェルがひとり倒していたのだ。
「あいつ、作戦を分かってないだろう?」
「たぶん………」
クンツァイトは呆れ顔でアルテミスを見る。アルテミスも肩を竦めるしかなかった。
「ちょっと! あんたたちが全部やっつけちゃったら、あたしが出てきた意味がないじゃないのよ!」
パールのルージュを引いた唇を窄ませ、奇抜な格好をした彼女は、ふたりの横に並んで文句を言った。
クンツァイトはチラリと彼女を見ただけだった。アルテミスは困ったように、後頭部をボリボリと掻いた。
「下がうるさくなってきた。一気にカタを付けて退散するぞ」
ちらりと下を見る。パトカーの台数が増えている。テレビ局の放送車も何台か見えた。
「ああ」
アルテミスは頷く。
クンツァイトとアルテミスのふたりは、女性を無視して行動に移った。
彼女は再び悪態を付かねばならなかった。
シャルル・ド・ゴール・エトワル広場は、警察関係者と報道関係者でごった返していた。
凱旋門上空で繰り広げられている戦闘を、報道局のカメラマンが必死にレンズに捕らえている。
命知らずのニュースキャスターが、ヘリコプターに乗って現場に到着した。
「まずいわね」
シャンセリゼ通りの街路樹の陰から状況を見ていたヒメロスは、横にいるアンテロスに目配せをした。
これ以上、戦いを長引かせるわけにはいかなかった。戦闘が拡大すれば、一般の人々も巻き込まれる恐れがある。
「行くわよ、アンテロス!」
言うが早いか、ヒメロスは弾丸のように凱旋門の上空へ向けてジャンプした。
報道のヘリコプターを牽制しつつ、騎士が攻撃してきた。既にふたりしかいない。
大剣を振り上げ、ひとりの騎士が突進してきた。アルテミスから見れば、隙だらけの構えである。レベルダウンをし、尚かつ剣を持っていなくても、アルテミスの敵ではなかった。
するりと身を翻すと、騎士の背中に蹴りを叩き込んだ。
騎士はバランスを崩す。あとはクンツァイトが処理した。
騎士の手から大剣を奪うと、至近距離からエネルギー波を撃った。
僅かに呻き声を上げて、騎士は消滅していった。加減をしたのだが、相手が弱すぎた。
「ちっ!」
クンツァイトは舌打ちをする。殺すつもりはなかったが、今更悔やんでも後戻りはできない。
アルテミスも仕方ないという風に、首を横に振った。
残るはひとりである。
「攻撃はするなよ!」
背後のマクスウェルと、奇抜な格好をした女性に小声で言うと、クンツァイトは鋭い視線を残った騎士に向けた。
ひとりとなってしまった騎士は、戦闘意欲をなくしていた。
横に並んでいるアルテミスは、クンツァイトから渡された大剣を片手で軽々と構える。それだけで騎士にとっては驚異のはずだ。普通、大剣は重すぎるために両手で扱う剣なのである。それをアルテミスは、片手で軽々と振り回して見せたのである。もちろん、かなり無理をしている。傷口に激痛が走るが、アルテミスは表情に出さなかった。
騎士は宙に浮いたまま後ずさりした。
エネルギー弾を乱射すると、一目散に逃げ出した。
「ちょっとぉ! 逃げちゃうじゃない!!」
奇抜な格好をした女性は、慌てて光線技を放とうとする。その手を、アルテミスが止めた。
「いいんだよ、それが作戦なんだ」
「え!?」
「よし! 追いかけるぞ!!」
唖然としている女性を一瞥すると、クンツァイトは鋭く言い放った。