転生してきた理由
レイの部屋に、全員が通された。
程なく、優一郎がお茶とおやつを運んできてくれた。最近になって、火川神社に住み込みで働くようになったばかりの優一郎だったが、レイの友だちである、うさぎたちとはもう顔馴染みであった。親しみやすい一風変わった性格の優一郎は、すぐにうさぎたちと打ち解けて話ができるようになった。照れ屋の優一郎は、うさぎたちのいいおもちゃだった。
さる財閥の御曹司だという優一郎だったが、気さくなその性格は、そんなことを微塵も感じさせなかった。彼が何故、神社に住み込みで働こうなどと考えたのか、レイたちには理解できなかった。自宅にいれば、何不自由なく生活できるはずなのである。祖父に言わせれば、そんな生活に嫌気が指したのだろうと言うことだった。
にっこりと笑って愛想を振りまくと、優一郎はすぐに立ち去っていった。レイの部屋には一歩も入らない。部屋の中があまり見えないような位置で、お茶とおやつの乗ったトレイをレイに渡しただけだった。
優一郎は、その辺の自分の立場というものを、きちんとわきまえていた。礼儀正しい男であると同時に、ひどく純情な男なのである。異性の、しかも年頃のレイに、かなり気を使っている。レイに少なからず、好意を抱いているのは端から見れば分かるのだが、男嫌いのレイは、全くと言っていいほど優一郎の気持ちに気付いていない。
祖父の古い友人の孫らしい優一郎が、住み込みで働くことになると聞いたとき、レイは猛反対したものだった。女子高生のレイにしてみれば、若い男、それも得体の知れない人物と同じ屋根の下で暮らすということは、言葉で言うより大問題なのである。ましてや、レイは男嫌いである。優一郎が来るならば、自分が家を出ていくとまで言ったレイだったが、結局は祖父が心配で、そのささやかな抵抗は、言葉だけで終わってしまった。そして、優一郎はやってきた。大金持ちの御曹司だというから、さぞかしにやけた女誑しが来るのだろうと思っていたのだが、蓋を開けてみると、拍子抜けしてしまうほどの優男だった。ぼさぼさの髪に無精髭を生やし、ホームレスと見間違うような格好で、火川神社の鳥居を潜ったのである。レイは呆気に取られてしまったものだった。
レイの怒りは、その日のうちに収まった。優一郎の実直さを認めたのである。彼が住み込んでから、そろそろ一ヶ月が経つが、今では何の抵抗も感じないし、不便だと思ったこともない。むしろ、いい用心棒ができたと安心していられるし、優一郎はよく働いてくれる。レイが学校へ行って留守の間の火川神社を、よく守ってくれている。
レイはトレイを中央のテーブルに運ぶとき、チラと窓の外に目をやった。レイの部屋からは、神社の境内が見渡せるようになっている。
あのあと、“毛むくじゃら”にされていた女の子たちは、優一郎によって呼ばれた救急車によって、病院へと運ばれていった。陽子が付き添いで行くと申し出たので、任せることにした。もちろん、フォボスとディモスを護衛に付かせるのも忘れてはいない。
陽子が付き添いをすると言ったのには、理由があった。“毛むくじゃら”にされていた女の子の中に、彼女の親友が含まれていたからだった。レイは陽子に、女の子たちが“毛むくじゃら”にされていたことは、くれぐれも他言しないようにと念を押すと、彼女たちを陽子に任せた。自分も同行したかったが、今後のことを仲間たちと打ち合わせをしなければならないので、神社を離れるわけにはいかなかった。だから、フォボスとディモスを護衛に付けたのである。ふたりは、カラスの姿のままで、陽子に密かに守っているはずだった。
「敵が火川神社に現れたということは、明らかに美童さんを狙っているということじゃないのかな? 彼女を単独で行かせるのは、やばいんじゃないか?」
フォボスとディモスを付けたのは、まことがそう言ったからでもあった。
確かにそうなのである。“毛むくじゃら”が火川神社に現れたのは、偶然にしてはできすぎている。それに、明らかにだれかを捜しているような行動をとっていた。
「あたしたちの存在を敵も知ったと思うから、再び襲うにしても、すぐには行動を起こさないと思うわ」
ルナの考えは、正しいもののように思えた。“クラウン”の前で倒した敵は、十三人衆とか名乗っていた。組織の中である程度、地位のある者だと考えられる。その相手を、いとも簡単に倒してしまったのである。敵も馬鹿ではないかぎり、次は慎重に行動するだろうというのが、ルナの意見だった。
窓から見ることのできる境内では、数人の警官が現場検証をしていた。先程の自衛隊の隊長の姿も見える。
レイはトレイをテーブルの上に置くと、自分は普段寝ているベッドの上に腰を下ろした。T・A女学院の制服のスカートは、非常に短い。床に直接腰を降ろしている者にとって、ベッドの上に座られると、目のやり場に困ってしまう。アルテミスもこれには苦労をしていたが、アポロンも同様の苦労をすることになりそうだった。相手がネコの姿をしているので、ついつい男がいるということを忘れてしまうのは、彼女たちの悪い癖だった。おかげでアルテミスは、けっこういい思いもしていた。
ほたるが、ティーポットの紅茶をカップに注いでくれている。配るのは、まことの役目だった。
「さて、何からどう話しましょうね………」
ルナが話を切り出した。
「分からないことが多すぎるわ………」
レイは、カップに浮かぶレモンの輪切りを見つめていた。チラと新顔の女の子に目を向ける。その視線に気付いた彼女は、小さく頷いた。
「まずは、あたしたちの方から、話した方がいいですよね」
先程の自己紹介のとき、「太陽もなか」と名乗った初対面の女の子が、相棒の茶褐色のネコに伺いを立てる。
「そうだな………」
茶褐色のネコ───アポロンは頷く。
「ええ、まずはどうして死んだはずのあなたがここにいるのか、説明してくれなきゃね」
ルナが自己紹介のときに質問していたことと同じことを、再び訊いてきた。どうやらルナは、随分とそのことに拘っているようである。
「簡単なことさ。死んでなかったってことだよ」
アポロンはさらりと答える。もちろん、そんな簡単な答えで納得するようなルナじゃない。
「あたしは冗談を訊くつもりも、あなたと漫才をする気もないわ」
ルナの言い方には、明らかに険があった。からかっているような返事に怒っているのだ。睨むようにアポロンを見る。
「怒るなよ。ようはあの戦いでは、死ななかったってことなんだからさ」
アポロンは軽く受け流す。ルナは拗ねたような顔をした。
「あの戦いって?」
うさぎがルナに質問した。アポロンに尋ねるより、ルナの方が質問しやすかったからだ。
「そうか………。うさぎちゃん、いえ、プリンセス・セレニティは小さかったから、覚えていないのね」
ルナは遠くを見るようにして言う。
「何言ってる………。お前だって、子供だったじゃないか」
「アポロン、茶化さないでよ! 話が先に進まないじゃない! そういうところは、ホントに兄弟よね」
「兄弟って、だれと?」
訊いたのはレイだ。端のやや釣り上がった猫のような瞳をくりくりさせる。興味を示したときのときの、レイの癖だった。
「あいつよ。あの、お間抜けオトコの………」
「アルテミスぅ!?」
レイとまこと、そして、うさぎまでもが声を揃えた。「お間抜けオトコ」で、三人が三人ともアルテミスを連想したということは、普段からそう思っているということの現れだった。本人が聞いたら、きっと嘆き悲しむことだろう。
「うそぉ………!」
年下のほたるだけ、三人とは違う反応を示した。両の拳を口の前で軽く合わせて、目をパチクリさせながら、アポロンを見ている。
「おい! こいつら、アルテミスを知っているのか?」
「知ってるもなにも………」
ルナはアルテミスが、マゼラン・キャッスルのプリンセス・アフロディアすなわち、セーラーヴィーナスの側近として、シルバー・ミレニアムに来た経緯を、手短に話して聞かせた。更に、ミレニアムが崩壊後、何人かのセーラー戦士が現世に転生していることも話した。
アポロンはミレニアムの崩壊を、地球で見ていたという。
「反乱軍を組織して、ゴールデン・キングダムの宮殿に攻め入ったときには、既に遅かったんだ………」
アポロンは悔しげに言った。
「済んだことを悔やんでいたって、しょうがないじゃない。あたしたちはこうして転生してきているんだし、今のこの時代の平和を守っていくってのが、あたしたちの最大の使命じゃないの? アポロンがいつも言っていることじゃない」
セーラーサン、いや、太陽もなかが、へんに大人びたような口調で、元気のないアポロンに言った。そして、次に、うさぎの方に視線を移した。
「プリンセス・セレニティって、シルバー・ミレニアムの王女様のことですよね?」
「そ、そうだけど………」
もなかが妙にキラキラとした瞳を自分に向けてくるので、うさぎの方がかえってドギマギしてしまった。
「もなかの、前世でのお姉さんということになる」
アポロンはさらりと言った。
「へ!?」
うっかり聞き逃してしまいそうだったが、あまりにも突拍子もないことだったので、しっかりと耳に残っていた。
どういうことか説明しろというような視線で、皆は一斉にアポロンを見た。
「プリンセス・セレニティとは、正確には、腹違いの妹ということになるんだが………」
アポロンは、ちらりともなかを見る。
「もう! ますます分からなくなったじゃないの!! もったいぶらずに、早く話しなさいよ!!」
ルナはとうとう癇癪を起こしてしまった。頭から湯気を出し、ものすごい形相でアポロンを睨む。
「相変わらずせっかちだな、お前は………。これから、ちゃんと話すよ!」
アポロンはマイペースだった。ルナの癇癪を、軽く受け流している。いかにも、慣れているという風だった。
太古の昔、現代の地球では未だ発見されていない、水星の内側の太陽に最も近い惑星を守護に持つ、セーラー戦士がいた。彼女の名はセーラーヴァルカン。彼女は優秀な戦士であったが、そのあまりにもの強力なパワー故に、クイーン・セレニティに恐れられていた。クイーンは、そのセーラーヴァルカンの能力に、危機感を抱いていたのである。
クイーン・セレニティはセーラーヴァルカンを、惑星ヴァルカンにある太陽の観測所の任に就かせた。シルバー・ミレニアム随一の能力を持つセーラーヴァルカンからしてみれば、それは左遷以外のなにものでもない。クイーン・セレニティは、自分の能力を恐れたがために、自分を辺境の地へと追いやったと考えたのだ。
クイーン・セレニティからしてみれば、確かにセーラーヴァルカンの能力を恐れていることもあったが、なによりもセーラーヴァルカンの能力を信じたからこそ、危険な太陽の観測所の任を任せたのである。しかし、セーラーヴァルカンはもとより、周囲もそうは思っていなかった。クイーン・セレニティは、セーラーヴァルカンを恐れ、辺境の地へ左遷した。そう、シルバー・ミレニアム中で噂になった。
プライドを著しく傷つけられたセーラーヴァルカンは、七人の仲間とともに、シルバー・ミレニアムに対し、反乱を企てた。
その反乱の鎮圧に動いたのが、シルバー・ミレニアムの王キング・プロメティスであった。アポロンは、そのキング・プロメティスの側近であったのだ。
戦いは熾烈を極めた。キング・プロメティスもセーラーヴァルカンも、優秀な部下を次々と失った。
そして、ついにキング・プロメティスは、セーラーヴァルカンを地球軌道上で追いつめた。だが、激しい戦いで傷ついていたキング・プロメティスは、セーラーヴァルカンを倒すことはできなかった。倒すことは不可能と考えたキング・プロメティスは、セーラーヴァルカンを地球上に封印する作戦に切り替えた。アポロンと協力して、セーラーヴァルカンの封印に成功したキング・プロメティスだったが、ついに力尽き、地球へと落下した。
シルバー・ミレニアムには、キング・プロメティスは、セーラーヴァルカンと刺し違えたと伝えられたが、事実は違っていた。キング・プロメティスは地球上で生きていたのである。ただ、戦いの大きな代償として、記憶を失っていた。
アポロンも同じく記憶を失っていたが、キング・プロメティスに仕えなければならないという思いだけは、潜在意識として残っていた。ふたりが共に記憶を失っていたがために、シルバー・ミレニアムに帰還することができなかったのである。キング・プロメティスは記憶を失ったまま、地球人として暮らすこととなった。
時は流れ、キング・プロメティスは地球の女性と結ばれ、ふたりの間には女の子が生まれた。娘は、キング・プロメティスの能力を全て受け継いでいた。娘が生まれたと同時に、キング・プロメティスは記憶を取り戻した。記憶を取り戻したキング・プロメティスは、セーラーヴァルカンの封印が完全でないことを知る。そして時が経てば、何れセーラーヴァルカンの封印は解けてしまうということも知った。しかし、キング・プロメティスは、その能力を全て失ってしまっていた。キング・プロメティスはセーラーヴァルカンを倒すことを娘に託し、転生の秘術を施した。セーラーヴァルカンの封印が解けかかっている時代に、娘は転生を約束された。娘をサポートさせるために、キング・プロメティスはアポロンの記憶を呼び起こし、彼をコールド・スリープさせた。娘が転生した時代で、彼は眠りから目覚めるようになっていた。
アポロンはセーラーヴァルカンの封印が解ける前に、キング・プロメティスの娘を捜しだし、戦士として育てることを使命として与えられた。
「じゃあ、ふたりが目覚めたってことは、この時代に、セーラーヴァルカンの封印が解けてしまうということなの?」
話を終えたアポロンに、ルナが質問した。さすがに表情が硬い。
「ああ。残念ながら、そういうことだろうな………」
今度ばかりは、アポロンもおちゃらけたしゃべり方はしない。
「………でも、まだセーラーヴァルカンは封印されたままなんだから、今回の事件と、セーラーヴァルカンとは無関係よね」
「一概には、そうは言い切れないよ、プリンセス………。きっさも話したとおり、セーラーヴァルカンには、七人の仲間がいたんだ。彼らが絡んでいることだって考えられる」
「彼らも転生しているって言うのかい?」
肘を突いて、じっと話を聞いていたまことは、姿勢を正した。
「あくまでも可能性の問題だけどね………。セーラーヴァルカンは、底知れぬ力を秘めていた、自分が封印される直前に、仲間たちに転生の秘術を施すことなど、容易いことだろう。」
「自分の封印が、何れ解けるだろうということを、彼女は知っていたのかしら………」
レイは呟くように言った。特にアポロンに対して言った言葉ではないのだが、アポロンは答えてくれた。
「封印が完全でないと気付いていたのかもしれないし、例え封印が完全だったとしても、転生させた仲間たちに、自分の封印を解いてもらおうと考えたのかもしれない………」
「でも、もし封印が解けたとしても、もうシルバー・ミレニアムはないんだから、セーラーヴァルカンは何もしないんじゃない? セーラーヴァルカンが復讐しようとしたクイーン・セレニティも、もういないわけだし………」
うさぎが楽観的なことを言った。まことも同じ意見だったらしく、うさぎと同じような視線を、アポロンに向けた。
「いや、おそらくセーラーヴァルカンは、地球を欲しがるだろう」
「地球を? どうして?」
「あの時も、そうだったからだ」
アポロンは続ける。
「セーラーヴァルカンは、地球が欲しかったんだ」
きっぱりと言った。
「以前も地球を狙っていたってことなの?」
今度は、ほたるが質問する。アポロンは、こくりと頷く。
「なぜ、セーラーヴァルカンが地球を欲しがったのかは分からない。だが、地球の軌道上で戦闘になったことで、セーラーヴァルカンの戦闘力は、著しく低下したのは事実だ」
「どうしてでしょう?」
「地球が傷つくのを恐れたのからだ。だから、地球を背にして戦っていたキングは、有利に戦うことができた。セーラーヴァルカンは、キングが自分の攻撃を避けることを恐れて、大きな破壊力のある技を使えなかったんだ。もしあの時、ポジションが逆だったら、キングはセーラーヴァルカンを倒すどころか、封印さえもできなかっただろう。逆に、キングが殺されていたかもしれない」
「そんなに、凄いの? セーラーヴァルカンて………」
レイは、背筋に冷たいものが走ったような気がして、ぞくりとした。
アポロンは「ああ」と答えてから、黙り込んでしまった。
「………でも、アポロンもさっきの一方的な戦いを見たでしょう? うさぎちゃんたちは、そうとう強いわよ」
ルナはうさぎたちの力を過大評価はしていないが、それなりに認めていた。どんなに強いと言われていても、相手もセーラー戦士である。今のうさぎたちなら、負ける気はしなかった。
「俺も、四守護神の力がどの程度のものなのかは、分からない。さっきの戦いを見せられれば、少なくとも、もなかよりは上だとは思う。だが、セーラーヴァルカンには、七人の仲間がいるんだ」
「でも、セーラーヴァルカンほどじゃないでしょう? それなら、ちょちょいのちょいと、やっつけられるわよ」
「プリンセス。あなたは、楽観的すぎる」
うさぎの台詞に被せるように、アポロンは意見を述べた。楽観的すぎると指摘されたうさぎは、頬を膨らませて、少しばかり拗ねた態度をとった。
「気分を悪くしたのなら謝るが、そんなに楽観的なことばかり言っていると、いつかは殺られてしまうぞ。俺は実際、あいつらと戦って、ある程度の力は分かっているつもりだ。やつらはそれぞれ、特別な能力を持っている。凄腕の剣士がいれば、邪悪な魔道師もいる。中でもふたりのセーラー戦士の力は、おそらく君たちに匹敵するものだ」
「ま、まだセーラー戦士がいるの?」
うさぎは目を見開いている。知らない戦士が多すぎる。そろそろ、頭の中がパニックになりそうである。
「セーラーヴァルカンは、シルバー・ミレニアムのセーラー戦士の中では最強だ。言わなかったか? セーラーヴァルカンは、クイーン・セレニティが恐れるほどの力を持っていたんだ。そして、クイーン以上の力を持っていた、キング・プロメティスが勝てなかった相手なんだ」
アポロンは、うさぎの問いには答えなかった。続けて、アポロンは言う。
「だが、もなかが覚醒し、戦士として一人前になれば、君たちと協力して、今度こそセーラーヴァルカンを倒せるかもしれない」
「そのために、あたしは今、さっきの組織のやつらと戦っていたのです。自分自身のレベル・アップのために………」
もなかが口を開いた。さっきのやつらとは、もちろん、ブラッディ・クルセイダースと名乗った、“毛むくじゃら”を操っていたやつらのことだ。
「あいつらか………。あいつらは、何者かしら………」
レイは顎に、右の拳を添えるようにした。
「人を使って、何かをしようとしているのは事実ですよね」
ほたるが言う。思い出したように、すっかり冷えてしまった紅茶を口に含んだ。
「“クラウン”のところにいた子たちのことは分からないけど、神社に襲ってきた子たちは、全員T・A女学院の生徒だわ」
「ええ。高等部のひとがひとり、のこりの三人は、中等部のひとたちでしたね」
そう、レイに確認するほたるは、T・A女学院の中等部に通っていた。
「気を付けてね、ほたる。女学院内で、何か起こっているのかもしれないわ」
レイは自分自身にも言い聞かせるように言った。
「 T・A女学院だけに決めつけるのはよくないわ。四人とも、たまたま女学院の生徒だっただけかもしれないし………。うさぎちゃんたちも気をつけるのよ」
母親が自分の子供に言うような口調で、ルナは言った。うさぎもまことも頷いてくれた。
「………ところで、もなかちゃんは、学校はどこなの? この辺に住んでるの?」
訊いたのはうさぎだ。きっと、訊きたくてうずうずしていたのだろう。尋ねるうさぎの顔は、生き生きとしていた。
「十番中学です」
もなかは、短く答える。
「あれま、そうなの? 『春だ』は元気?」
「元気、元気。もう、うるさいくらいです。あたしのクラスの担任なんですよ!」
「うそぉ!? じゃ、うちの進悟と同じクラスじゃないの!」
「えぇ!? じゃあ、あの月野君て、うさぎさんの弟なんですか!?」
「世間て、広いようで狭いのね………」
そう、妙に感心してみせるうさぎだったが、「筆者の都合」などという言葉は、もちろん思い付くはずもなかった。