プロローグ
怖い。怖いよぉ………。怪獣が追い掛けてくるよぉ………。
それは、物心付いた時から、時々見ている夢。
恐怖の夢。
夢の中にあって、しかし、それは色鮮やかだった。見るもの全てが、鮮明な色を伴っていた。
全身が黄金色に輝いている怪獣が、一定の距離を置いて自分を追い掛けてくる。
恐ろしい形相で迫ってきているのだが、いつまで経っても差が縮まることはない。同様に、いくら逃げても差が広がることもない。
追い付かれるわけでもなく、逃げ切れるわけでもなく、ただただ「追われている」と言う恐怖をひたすらに感じて走り続けなければならなかった。
立ち止まってしまったら、怪獣に追い付かれてしまうからだ。
それは、終わりのない恐怖。
しかし、本当にそうなのだろうか。だって、本当に立ち止まったことがないから、その結果がどうなるかなど、分かろうはずもなかったから。
立ち止まってみたら、何かが変わるかもしれないと感じるのだが、夢の中の自分はそう決断するだけの勇気を持ってはいなかった。
必死になって逃げさえしていれば、追い付かれることはないのだから、敢えて危険を冒す必要はないのだ。
目が覚めたときに夢だと分かるのであって、夢の中の自分は、それが夢であるなどとは思っていないのだ。夢の中の自分にとって、怪獣に追われている様は現実なのだ。だから、何が何でも逃げようと努力する。
走って走って走り疲れて、そして目が覚める。
それの繰り返しだった。
以前は両親に話したこともあった。しかし、両親はふたりとも夢の中の出来事だと言って笑うだけで、真剣に取り合ってはくれなかった。
自分もずっと、夢だと思っていた。
そう。その日、夢の中で、いつもと違う現象が起きるまでは―――。