解決章 あさま539号の殺意
午前七時三十分、東京駅長野新幹線ホーム。亜美と美奈子、うさぎたちが乗る八時十二分発「あさま539号」は、終点の長野駅まで各駅に停車する。上野愛に銀水晶の力を借りて変装したうさぎは、指定席の4号車、一番東京より、東側の窓側の席に座った。亜美達は同じく東京よりの西側の通路よりの席に座った。なお、本物の上野愛は、東京駅の個室で午前八時四十分に東京駅を出発する「あさま503号」に乗るため警護付きで待機していた。
「亜美ちゃん大丈夫かな??」
愛になっているうさぎが亜美に話しかけた。
「大丈夫よ。いざとなったら、セーラームーンに変身すればいいことだし」
亜美は心配性のうさぎを慰めた。
「でも、亜美ちゃんは変身できないのよね・・・」
「トイレでっていう手もあるわよ」
美奈子が余計な口を叩いた。
「こらこら。コスプレ大会じゃないんだから・・・」
同乗している桜田警視総監はため息を付きながら、美奈子を注意した。
「おっと、他の捜査員や乗客も来たから、あんまり変な話はしないこと」
「はい」
亜美が三人を代表して答えた。
午前八時十二分、「あさま539号」は定刻通り、東京駅を出発し、長野へと向かった。新幹線とはいえ各駅停車。上野、大宮と列車は各駅に次々と停車する。亜美は新聞の運動面で「天王はるか、見事にF1日本GPを制し、最終戦を待たずに年間チャンピオンに」という記事を読んでいた。
「はるかさんすごいわね。フェラーリやベンツエンジンにホンダエンジンが勝っちゃうんだから」
亜美は少し興奮したように言った。
「だてにモナコGP優勝していないって・・・」
美奈子は当然のような言葉を発した。はるかの所属するBARホンダは99年にF1に復帰し、はるかがフォーミュラジャパンから移ったあとは、破竹の勢いで、海外のエンジンメーカーのドライバー達を押しのけ、ついに念願の年間王者に登り詰めたのだった。
「次は、インディーカーレースかしら??」
亜美は美奈子に聞いた??
「ホンダエンジンで??インディーはトヨタエンジンの方が・・・」
美奈子もモータースポーツにちと詳しいらしい。
「そこの二人。変なことで盛り上がらない」
同乗者のまことが、トイレから戻ってきた。
「はるかさん、来シーズンからどうなるのかしら・・・」
「大丈夫だって。国際A級ライセンスは、四輪のモータースポーツならほぼ精通できる便利な資格だから、GT選手権やル・マン24時間耐久レースだって出られるんだから」
まことも飛行機が駄目な割に、モータースポーツの方には詳しいようだ。
「ところで、変わった様子はないのかい??」
まことが亜美と美奈子に聞いた。
「今のところ変わった様子なし。ただ、やっぱりJRのシステムに何者かが侵入した形跡があったそうよ。もし、犯人ならばこの503号に絶対乗ってるはずだけどね」
亜美が力説する。
「あとは、犯人がうさぎに引っ掛かるかどうかか・・・」
まことがため息を付く。
「横川の峠の釜飯はいかがですか??」
駅弁売りが亜美達に話しかける。
「じゃあ、三つ」
美奈子が駅弁売りに注文した。
「三つですね?2700円です」
「はい」
「ありがとうございました」
駅弁売りは愛に変身しているうさぎにも声を掛け、うさぎも釜飯を食べていた。
「長野新幹線が出来るまえ、横川駅の釜飯の争奪戦が名物だったけど、新幹線じゃそんなこと出来ないから、車内販売なのよね」
美奈子が懐かしそうに語った。美奈子は小さいとき、上野からL特急「あさま」に乗って長野に行き、途中の横川駅で機関車の連結作業がある6分間の間に、峠の釜飯を買いに、横川駅のプラットホームを駆けて、家族全員分の釜飯を買って、電車の扉が閉まる直前に飛び乗った思い出があるという。
「で、長野でスキーをして、転んで顔面を打って大泣きしたっけ」
美奈子は苦笑しながら亜美に語った。
539号は高崎を過ぎて上越新幹線に別れを告げ、長野新幹線内に入っていった。この長野新幹線、最初は「長野行新幹線」としていたのだが、意味不明との意見が相次ぎ、「長野新幹線」に名前を改めた経緯がある。ちなみに正式名称は「北陸新幹線長野ルート」だそうである。
「浅間山か・・・。なんか、心がシュンとするわ・・・」
亜美が独り言を言った。
「なにか、浅間山に思い出でもあるのですか??」
明智警視が隣の車両から亜美と美奈子のいる座席の前の席で、亜美の方に振り返って聞いていた。
「いえ、なんか火山の事を考えると、雲仙普賢岳災害を思い出すもので・・・」
まだ、群馬県内なので浅間山は見えないが、碓氷トンネルを越えて、軽井沢に近づくと、雄大な浅間山が新幹線の中から見えることを亜美は知っていた。
「あぁ、普賢岳火砕流災害ですか・・・。確かに浅間山と普賢岳の火山の性質はよく似ているそうですが・・・」
明智警視は亜美にそう言った。
「あの島原での、火砕流の光景は一生忘れられないでしょうね・・・」
「全くですね」
明智警視も峠の釜飯を頬張りながら、亜美と座席越しに話をした。
愛に変身したうさぎは、かなり神経質になっていた。殺人犯に狙われている人物に変身しているわけなので、いくらうさぎでも怖いわけはなかった。
「レイちゃん聞こえる??」
まだ、東京駅の個室で本物の愛と一緒にいるレイに発信器で声を掛けた。
「電波良好。よく聞こえるわよ」
レイが時計型発信器でうさぎの発信器に話しかけた。
「あさま539号、今のところ動きがないの。かなり神経をすり減らしてます・・・」
うさぎがレイに弱音を吐いた。
「我慢我慢。東京駅も異常なし。愛さんがなぜ別室なのか?と聞いてきたけど、衛さんが万万が一駅の中で倒れられたら大変だからね、と出任せ言ってたわよ」
「まもちゃんらしい・・・」
レイの報告にうさぎは少し笑顔を取り戻した。
「東京で何かあったら、また連絡するから。上田まで頑張るのよ」
「分かった」
レイはうさぎを励まして、通信をやめた。とそこに、通路を挟んだ隣の席の亜美から発信器を使ってうさぎに注意をした。
「うさぎちゃん、碓氷トンネルが勝負よ」
「了解」
うさぎは覚悟を決めて、群馬県と長野県の県境、碓氷トンネルへあさま539号は近づいていった。
碓氷峠・・・。信越本線最大の難所であった横川〜軽井沢間は、長野新幹線が開業したのと同時に廃止となった。沿線住民が廃線は違法として、訴訟沙汰にまで発展したが、日本で一番、在来線としては勾配がきつく、その上大変危険だと言うことで、復活とはならなかった。長野新幹線が開業してからも、碓氷トンネルは難所で、時速200キロ以上でトンネル内の急勾配を駆け上がるので、フル規格の新幹線としては一番お金のかかった区間だそうだ。あさま539号は、その難所、碓氷トンネルへと入る。
「うわ!耳が痛い!!」
「体にあまり力が入らないみたいね・・・」
亜美が気圧の変化で耳に異常をきたし、悲鳴をあげた。近くに座っていたまことも、急な気圧の変化で、一時的に平衡感覚を失う。碓氷トンネルはそんなところでもあるのだ。犯人にとって、碓氷トンネルは犯行を行うのに申し分のないポイントであり、亜美はそれを警戒して、うさぎに碓氷トンネルの名前を出したのだ。
しばらくすると、体が周辺の環境に順応してくるため、一時的な平衡感覚の喪失状態や耳の異常はやわらぐ。しかし、今度は標高が急激に上がってくるため、再び耳の異常が起きるか、頭がポーッとしてしまう人が出てくる頃合いである。そんな中、一人の太った男が、愛に変身したうさぎの方へよろけながら近づいていった。
「誰?」
うさぎはその男に声をかけた。その時・・・。
「キャ〜〜〜!!!」
うさぎの悲鳴が車内に伝わる。男は、うさぎに向かってナイフを付きだそうとしているところであった。
「させるか!!」
まことの跳び蹴りが男にヒットする。男はその場に倒れ込んだ。
「まこちゃん!!」
「うさぎ、大丈夫か!?」
「大丈夫!!それより、そいつは!?」
「もう、伸びてる見たい・・・」
まことがうさぎの無事を確認している間、亜美が男に手錠をかけ、冷静に現在の男の状況をうさぎとまことに報告した。
「は〜あ。よりによって碓氷トンネルなんて言う、一番みんなが警戒するポイントで仕掛けるんだもの。まこちゃんの跳び蹴りくらいで済んだんだから良かったと思いなさい、S商事人事課の草加宗助さん?」
美奈子は、犯人に向かって捨て台詞を吐いた。
「ちょっと、三人とも大丈夫??」
隣の車両から桜田総監が血相を変えて飛び込んできた。
「まこちゃんの跳び蹴りが、まともに犯人に入ってしまったようで・・・」
亜美は自分たちよりも、犯人にかなりのダメージを与えたことを気にしているようであった。
「一応、正当防衛だから大丈夫だけど・・・。月野さんけがは??」
いつの間にか変身を解いて、うさぎは本来の姿に戻っていた。
「全然。お約束で悲鳴は上げましたが・・・」
「うさぎちゃん、どんなお約束よ・・・」
美奈子が首を振った。
「おうおう、派手にやったね・・・」
麻布署の谷橋警部補がため息をついた。丸ノ内署の篠山警部も一緒である。
「民間人である彼女を、この車両に同乗させた意味がやっと分かりましたよ」
篠山はまことの見事な一撃に感服していた。
「一応、カンフーをやってるもので・・・」
まことが照れながら篠山に言った。
「最近の女性はすごいですね・・・」
明智警視と剣持警部も一緒に隣の車両から移動してきた。
「この男の身柄は、上田署で良いですか??」
剣持が明智に質問をした。
「そうですね。どうせ上田に行くのですから、上田にしましょう」
明智警視も上田行きに賛成した。
「あの〜、何かあったのでしょうか??」
血相を変えて、あさま539号の車掌が、四号車に駆けつけた。
「警視庁のものです。すぐに上田駅に捜査員を派遣するよう手配をお願いします。あそこで伸びている被疑者の尋問をしなくてはいけないので」
桜田総監が車掌にそう言った。
「分かりました。上田駅ですね?すぐに手配します」
車掌は四号車を離れ、すぐに乗務員室へと戻っていった。
「あっ、明るくなった」
列車が碓氷トンネルを抜けた。右手には浅間山がそびえる。長野県に入ったのだ。浅間山の頂上からは噴煙が上がっていた。
あさま539号は定刻通り、九時四十八分に上田駅に滑り込んだ。捕まった草加は、がっくりと肩を落として、上田駅のホームから長野県警の捜査車両に乗り込み、上田警察署へと向かった。
「さあ、私たちも上田署に行きましょう」
亜美と美奈子も上田署に向かった。
「二人とも、私たちはどうすれば・・・?」
「上田駅の待合室で、503号を待ってなさい!!」
美奈子はうさぎの質問にそう答えて、上田駅をあとにした。
「あたしの、功績は〜〜???」
「あたしの跳び蹴りは何のために・・・」
うさぎとまことは呆然と上田駅前で立っていた。
「で、今回の犯行の動機を教えなさい」
明智警視は草加宗助への尋問を上田署で開始していた。
「御手洗への復讐です」
草加はそう答えた。
「ほう、しかしなぜ御手洗さんに復讐など??」
「俺は、S商事の創始者の親戚筋に当たる人間だ。なのに、あいつはただの成り上がりなのに、僕には何の恩恵も会社はしてくれなかった!僕は、S商事に最もふさわしい人間だ!!あいつなんかに、S商事を乗っ取られてたまるか!!」
草加は興奮した様子で、明智にこう供述した。
「あなたが、S商事の創始者の親戚筋だろうと、会社というのは有能な人物を上に上げるというのが当然の世界。あなたにはその素質がないと、会社は判断したのではないのですか??」
明智は冷静に草加に語った。
「うるさい!!あなたに何が分かる!!!」
「あなたの考えなんて何も分かりませんよ。特に殺人者の考えなんて知りたくもありません。しかし、あなたの独りよがりには目に余るのも事実です。そんな動機であなたは何の関わりもない二人の将来のある女性を殺害し、さらに、御手洗さんの彼女まで殺害しようとした。あなたは復讐という名の下に、次々と人を殺害した、ただの殺人鬼ですよ」
「っ・・・」
草加は黙り込んでしまった。
「一人目の被害者と二人目の被害者とはどういうふうに知り合ったのですか??」
「阿部公子は、パソコンの出会い系サイトで知り合った。彼女はネットカフェのパソコンから出会い系サイトを利用していたそうだ。最初から殺す目的で近づいた。尻軽女にはああいう死に方が一番だ」
草加は吐き捨てるように言った。
「二人目は?」
「井口小百合は、叔父がうちの会社の静岡支社に勤めていて、井口の自宅に偽の手紙を出し、伊東市内のホテルで水に毒を混ぜて飲ませ、伊東漁港に遺棄をしたのです」
草加は、淡々としていた。
「なるほど、人事課の職権を悪用したわけですか。ということは、誰でも良かったわけですね?」
「あぁ、いがあれば誰でもよかったのさ」
「最後に、なぜ上野さんを狙ったのですか??」
「単純だ。御手洗の恋人だからな。奴の彼女を抹殺すれば、あいつは自動的に自らの命を絶ち、僕は晴れて昇進できますからね」
「自動的に命を絶つとは??」
「チンピラに頼んで、拉致してもらった。金さえあればあいつらはいくらでも動く。言うことを聞かないようであれば殺せといってある。彼女が死んだら、毒を飲ませて、自殺に見せかけるという筋だ。どうです、芸術でしょ??」
草加は笑みを浮かべて明智に話した。
「S商事は不幸だ。あなたのような人を入れてしまったのですから」
明智警視はため息をついた。
「都立十番高校への侵入窃盗事件もあなたですね?」
明智はそう言った。
「えぇ、たまたま通りかかったところが十番高校で、一番頭の良さそうな生徒を捜そうと思ってな。そいつに予告状を出そうと考えたわけさ」
草加はそう答えた。
「なぜ、水野さんが数々の難事件を解決していたことを知ったのですか??」
「メモが残っていた。事件簿みたいなものがね」
草加は微笑した。
「書類はどこに??」
「あぁ、燃やした」
草加は成績書類を燃やしたことも認めた。
「で、御手洗さんはどこですか??」
「あぁ、上田市内だ・・・」
「うさぎちゃん、聞こえる??」
「感度良好。亜美ちゃんどうしたの??」
亜美がうさぎの発信器に連絡を取った。
「御手洗さんの居所が分かったの。場所は駅前のビジネスホテル。すぐに救出して!!」
「えっ!?救出??相手はどんな??」
うさぎが亜美に質問した。
「チンピラ・・・・」
「あたい一人で十分だ」
まことが会話に割り込んでくる。
「ちょうど、むかむかしてた所だから、一暴れしてくるぜ」
「まこちゃん、くれぐれも、ね・・・」
「分かってるって!!」
うさぎとまことは503号からくるご一行を出迎える前に、御手洗が拉致されているビジネスホテルへと向かった。
「また、ずいぶんと派手にやったんじゃない??」
御手洗が監禁されていた部屋を見た桜田総監は、仰天した。
「いや〜、案外骨の折れる奴ばっかりだったもんで・・・」
「その割には、5分とかからなかったじゃない・・・」
まことの答えにうさぎが異論を説く。
「ドアを蹴破り、チンピラ四人の急所を蹴り上げ、更にリーダー格にはかかと落としをお見舞い・・・。変身するまでもないのはわかってたけど、すごいわね・・・」
桜田総監は呆然と部屋を眺めた。
「まぁ、御手洗さんが無事なだけいいかと・・・」
うさぎは必死にまことをフォローした。
「ま、とにかく書類上の事件は終わったわね。あとは、上野さんと御手洗さんの二人の問題ね」
桜田総監はそう答えて、鑑識作業を見つめていた。
10時07分、「あさま503号」は、定刻通り上田駅に停車し、矢橋警部、佐々木刑事が先に降り、あとから衛、ほたる、ちびうさ、レイ、せつな、そして上野愛が降りた。
「章・・・・」
愛は御手洗を見るなり、御手洗に飛びついた。
「ごめんな、心配させて。もう大丈夫だ」
「うん、うん・・・」
愛は泣きじゃくっていた。
「良い光景ね、衛さん」
レイは衛にそう言った。
「あぁ、良い光景だ」
衛もホッとしたように、レイに語った。
「えっ、浮気なんかしてなかった??」
桜田総監からの報告で、亜美はびっくりしていた。
「どうやら、彼女にも言えない大事な商談があったらしいの。だけど、あんまり適当なことは言えないから、リアル性の高い浮気というふうにしたというわけ」
「でも、上野さんはうつ病に・・・」
「だから、もう本当のことしか言わないらしいわ。もっとも、今回の騒ぎでその商談の担当からはずれるでしょうけどね」
桜田総監はそう話した。
「雨降って地固まるってところでしょうか??」
「さあ。あと、御手洗さん、そういう商談のない担当に回してもらうとも言ってたわ」
「なるほど・・・。ところで、なぜ草加容疑者はABC殺人事件を参考に??」
亜美は桜田総監に聞いた。
「草加はどうやら鉄道マニア&推理オタクのようで、東京の奴の自宅を捜索したら、時刻表やら、推理小説やらで埋め尽くされていたそうよ」
「なるほどね・・・。その知識をどうして、会社の方に生かさなかったのかしら??」
「それが人間のおもしろい所よ、水野さん」
桜田総監は笑った。
「さてと、しばらく上田に滞在ね。少し骨を伸ばさないとね」
「あぁ!!早くうさぎちゃんたちと、旅館に行かないと!!」
「どうして??」
桜田総監は不思議そうに言った。
「旅館の料理、食いしん坊二人組に全部食べられちゃう!!!」
「ハハハ・・・」
桜田総監は苦笑した。
「全く、まだ食べる時間じゃないじゃん!!」
うさぎは慌てて旅館に来た亜美をたしなめた。
「ごめん・・・。でも、おいしそう・・・」
食卓には、上田の地物の料理がたくさん並んでいた。なんと、松茸のおまけ付きである。
「じゃあ、いただきます〜〜〜!!」
みんな、疲れたのか、がつがつと食べ始めた。料理は1時間であっという間に無くなった。「それ〜、次は温泉じゃ〜〜〜!!!」
せつながらしくない発言をして、一同は温泉へと向かった。
「良い湯だな〜・・・。隣の女湯は大変だろうけど・・・」
衛が一人男湯でくつろぐ。とそこに、篠山警部と谷橋警部補も入ってくる。
「これは地場さん、今夜はここで??」
篠山が衛に聞いた。
「えぇ、二泊するつもりです。お二人とも捜査は??」
「殺人を担当する部署じゃないですからね。私たち二人も、しばらく湯治ですよ」
谷橋が湯に浸かりながら話した。
「ところで、お連れさん達は女湯に??」
篠山が聞く。
「今頃、キャピキャピしてますよ」
衛がそう話した。
女湯はある意味戦争状態であった。
「こら、ちびうさ!!ちゃんと体を洗いなさい!!」
「は〜い」
「ほたるちゃん、泳がない泳がない・・・」
セーラーチームの貸し切り状態の女湯は、色気も素っ気もなかった。亜美と美奈子は喧噪状態の内風呂を抜け出し、露天風呂で暖まっていた。
「全く、どこにあんな元気があるんだか・・・」
美奈子がひくついていた。
「いいんじゃない??特にほたるちゃんやちびうさちゃんは」
亜美は笑っていた。
「まぁ、みんなでしばらく骨休みしましょうよ。みんなでこうやってはしゃぐの久しぶりだもん」
美奈子は亜美にそう言った。
「ところで、部屋割りってあれでいいの??」
「あぁ、衛さんがうさぎちゃんと同部屋じゃないって言うこと??」
亜美がそう言った。
「うさぎちゃんは何で、衛さんと一緒じゃないんだろう?」
「私たちと馬鹿騒ぎさせたいんじゃない??じゃなかったら、ほたるちゃんやちびうさちゃんを引き受けるなんて言わないわよ」
亜美が美奈子にそう説明した。
「なるほどね。亜美ちゃん、今夜は寝かせないわよ(笑)」
「えぇぇ!?枕投げ戦争??」
「あったり〜〜〜!!」
「ひえ〜〜!!ご勘弁を〜〜美奈子様〜〜〜;;」
「どりゃあっ!!」
「ひえ〜〜〜;;;」
学生同士の旅行と言ったらこれ、枕投げ戦争。亜美には絶対的不利の儀式である。
「まこちゃんひど〜い。もっと手加減してよ」
「ふふふ・・・。手加減なしだぜうさぎ!!」
「むご〜〜〜〜!!!」
まことの枕が野球で言えば直球でうさぎにヒットした。
「懐かしいわね。こうやって、みんなで馬鹿騒ぎするの。何年ぶりかしら??」
せつながしみじみと言った。
「私たちも、出会ったばかりの頃はよく馬鹿なことやってたのですけどね」
亜美がせつなに言った。
「仲間か・・・。私たちはかけがいのない仲間ね」
せつなが亜美に言った。
「それ以上、家族ですよ」
亜美は笑って答えた。
後日、亜美は巡査から巡査部長に、美奈子は巡査長から警部補に特別昇進した。また、はるかとみちるを除くセーラー戦士全員が、巡査長に拝命された。もちろん、機密事項ではあるが。その後、二人を殺害した草加には、一審の東京地裁八王子支部で死刑判決を受け、二審の東京高裁に控訴し公判中。御手洗章は、S商事の外商部門から、問屋への交渉役に下がった。上野愛とは、御手洗章と婚約したと言うことは、あとで衛からみんなに知らされた事実だが、これは余談としておこう。
こうして、あいうえお殺人事件は幕を降ろした。(完)
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