セーラーチームへの予告状


あらすじ

ラジオ局に奇妙な予告状が届いた。「幻の銀水晶を頂く。怪盗キッド」。セーラーチームや一部の人間しか知らない幻の銀水晶の存在をなぜキッドは知っているのか。そして、キッドの狙いは・・・?警察、マスコミ、そして小さな探偵を巻き込みキッドのセーラーチームへの戦いの火ぶたがここに切って落とされる。

第一章 有楽町・ニッポン放送への予告状


 東京有楽町にある、ニッポン放送本社9階デジタルラジオスタジオ。ここでは、月曜日から金曜日までの夜6時から9時まで、インターネットやBSデジタルラジオ、CS放送を通じて、ラジオ局では珍しい画像音楽付きの生放送を行っている。リスナーからのリクエストやDJへの質問などは、インターネットを介してみている人が多いため、メールで送るのが原則。そんな生放送中に、一通のメールが届き、スタジオはざわめいた。アナウンサーが若干興奮したような声を出して、第一報を伝えた。
「えぇ、実は先ほど、番組宛に、いま世間を騒がせている怪盗キッドを名乗る人物から、犯行の予告状が届きました。この人物は短く一言【幻の銀水晶を頂く。怪盗キッド】と書かれてありました。ニッポン放送では、事実確認のためしばらくこのメールを伏せていましたが、警察に問い合わせた結果、本物である疑いが濃いとの理由で、このメールを公開することに決めました」

 うさぎは自室でテレビを見ていた。と突然、緊急報道番組に番組が切り替わった。
「番組の途中ですが、ここで臨時ニュースをお伝えします。今日午後8時過ぎ、東京の有楽町にある、ニッポン放送本社に、怪盗キッドを名乗る人物が電子メールで、犯行予告状をニッポン放送に送りつけてきました」
「また〜??ケーサツはなにやってんだか・・・」
うさぎがぼやく。
「いわゆる、派手に注目されたいやからの犯罪だからね。逆に捕まえにくいのかもね」
ルナが一言言った。
「ニッポン放送によりますと、犯行予告状には、幻の銀水晶を頂くとだけ書かれていたと言うことです。警視庁では、怪盗キッドが幻の銀水晶なる宝石を狙っているものと見て、捜査を開始いたしました」
「えっ・・・・・??いま、銀水晶って・・・」
うさぎの顔が凍る・・・。銀水晶の存在は、警視庁の一部の人間と、セーラーチームしか知り得ないものだからだ。
「なんで、私の銀水晶を狙ってくるわけ?そして、なんでラジオ局に予告状なんか・・・」うさぎは呆然としてしまった・・・。
「とにかく、みんなを集めて“クラウン”の司令室に行きましょ」
ルナはどこまでも冷静だった。

 ゲームセンター“クラウン”の地下にある司令室に、セーラーチーム10戦士が集まり、協議を始めた。
「以前の怪盗キッドの予告状との違いは、盗む場所を予告状の中で特定の場所を示していないこと。もう一つは、なぜニッポン放送に送ったかと言うこと。いつもは警察かテレビ局が常だったのに、ここも変というわけね」
美奈子が解説した。怪盗キッドの手段としては、警察あるいは在京のテレビキー局に「どこどこの場所の何々を頂く」という予告状が全ての事件で使われ、この二つの場所以外に予告状が送られるケースはなかった。ところが今回、AMラジオ局では一番影響力のあるラジオ局とは言え、世論に対してあまり影響力が薄いニッポン放送に送ったというのが、美奈子には引っかかっていた。
「でも美奈子ちゃん。ニッポン放送に送れば、グループの関係でフジテレビにはすぐに伝わるわよね??」
亜美は美奈子にこう質問した。
「ニッポン放送はついこの間、お台場から有楽町に引っ越したわけだから、伝わるには少し時間が掛かるわよ?」
亜美は珍しく頭を抱えた。
「まぁ、ニッポン放送にしてみれば開局以来の大スクープでしょうけどね」
ちびうさは素っ気なく言った。
「ただ、怪盗キッドはうさぎが銀水晶を持っているのを知っていると決まったわけではないな」
まことがみんなに言った。
「確かに。もしかしたら、怪盗キッドはあるかないか分からないけど、もしあったら誰かが何か動いてくるかもしれない。なかったらなかったで、あきらめるという考えなのかもしれない。あまり私たちが派手に動くと、勘づかれる可能性があるわね」
みちるが最もらしいことを言った。
「まぁ、しばらくはうさぎちゃんには派手に動かないよう、忠告するわ」
レイがうさぎに向かって言った。
「そうね。向こうが無いと思ってくれればそれでいいわけだしね・・・」
うさぎもレイの意見に肯定した。
「まあ、しばらくは様子見ということで。じゃあ、今日は解散」
アルテミスが解散を宣言し、一同は家に戻った。

 そのころの、米花市の毛利探偵事務所。小五郎がつまらなそうにテレビを見ていた。
「何だ?幻の銀水晶って・・・。聞いたことねえぞ・・・」
「きっと、なんか凄い宝石なんじゃない??」
蘭があっさりと小五郎に反論する。ただ、ここにいる小さな探偵だけは、深刻に受け止めていた。
「と言うわけで博士。その幻の銀水晶なるものを調べてみてくれよ」
コナンは、阿笠博士に電話で調査を依頼した。
「それはいいがな、わしもそんなもの聞いたことがなくての〜」
阿笠博士は「あまり期待するな」という声でコナンに言った。
「そこには、灰原だっているだろ?」
「じゃがな新一、哀君も聞いたことがないと言っておるぞ」
「ま、まぁとりあえず調べてくれよ」
コナンが阿笠博士に懇願する。
「新一の頼みじゃ。やれるところまではやってみるわい」
阿笠博士はそう言って電話を切った。そして、コナンの携帯に大阪のあいつから電話が掛かってくる。
「おう、工藤。元気しとるか??」
大阪の平次であった。平次もこのニュースを気にして、コナンに電話してきたらしい。
「元気じゃね〜よ。キッドから妙な予告状がラジオ局に送られたんだからな」
コナンは不機嫌そうに平次に言った。
「なんや、おまえも調べてんのか。それにしても、めんどくさい事件になりそうやな。幻の銀水晶なるものも本当に実在するかわからんちゅうのに、警察もなかなか手をだせんやろな」
「だろうな。あいつが狙っているものの在処を調べる前に、実在するかどうかを調べなきゃ話にならないからな」
コナンも平次の意見に納得した。
「ましてや今回の予告状の送りつけられた先が、初めてラジオ局やで〜。なんか、狙いでもあるんやろうか?」
「キッドも恐らく、実在するかどうか半信半疑なんだろうよ」
「ほ〜、その根拠は??」
コナンの答えに平次は驚いて聞いた。
「この世に存在がはっきりしているものなら、テレビ局や警察にいつも通り予告状を送って、騒ぎを起こせばいいが、今回はラジオ局、しかもインターネット放送だ。すぐに発表する警察や不特定多数が見るテレビより、限られた環境の中でしか見られないインターネット放送を使ったと言うことは、まだ騒ぎを起こすような段階では無いと言うことだろ」
コナンは冷静に答えた。
「まぁ、確かにネット放送なんか、パソコンに詳しい人じゃないと見られないしれものやし、予告状にはいつも書かれている犯行予告場所も書かれてへんかった。もしかしたら、もし持ってる奴がいたら、奴はそいつにえさをまいたんとちゃうかな??」
平次も冷静に推理した。
「だろうな。もし持ってる奴があわてふためく人間だったら、余計な行動に出る可能性があるからな。ただ、そんなものは迷信だとしたら、だれも何もアクションを起こさないわけだろうから、キッドも無いものは盗めないんだからあきらめるだろうぜ」
コナンも冷静にキッドの行動を推理する。
「しかし、逆に銀水晶が存在して、持っている人間がな〜んにも行動を起こさなかったら、キッドはどうするんやろな?」
「さあな。行動を起こさない人間がいたら、そいつは俺達と同じ推理をして、嵐が過ぎ去るのを待っているんだろうよ。ただその場合、もしキッドがあると確信したら、次の一手を打ってくるだろうな」
しかし、この後コナンが予想し得ない事態が起ころうとはこの時のコナンには推理できなかった。


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