もなかとプロキオン


 一度は“ラピュタ”を離れたプロキオンだったが、仲間たちが気付かぬうちに離脱し、再び“ラピュタ”に戻って来ていた。
「全く、馬鹿だぜ俺は………」
“ラピュタ”を見下ろし、プロキオンは自嘲気味に笑う。他の仲間たちは、復活したであろうセーラーヴァルカンの元に駆け付けているはずだ。そこでヴァルカンから、新たな命令を受けているだろう。その場にいない自分は、間違いなく処罰される。覚悟の上だったが、馬鹿馬鹿しいとも思っていた。自分が今までやって来たことの全てを否定して、戻ってきてしまった自分に、自分自身で呆れていた。
「こうなっちまったからには、なるようにしかならんさ」
 開き直るしかなかった。

「あたし戻る!」
セーラーサン(もなか)!!」
 日暮の元に戻ろうとするセーラーサンの左腕を、ジュピターは掴んだ。谷の向こう側からは、絶えず銃声が聞こえてくる。時折爆音も混じっている。激しい戦いが展開されていることは、想像に難しくない。
「あたしたちが戻っても、隊長は喜ばない」
 感情を押し殺すように、ジュピターは言った。セーラーサンの気持ちはよく分かる。本音を言えば、自分もセーラーサンと一緒に日暮の元に戻りたい。しかし、日暮の決意に納得し、自分たちはこちら側にやって来た。
「だけど、みんな殺されちゃいますよ!!」
 そんなことは分かっている。だけど、皆を制するのが自分の役目だとジュピターは思っていた。日暮の決意に報いるためには、自分たちは一刻も早く敵の本拠地に辿り着き、敵を殲滅させる必要がある。十番病院に残されている大勢の人たちを救うためには、何としてでもやり遂げなければならない任務である。
セーラーサン(もなか)、分かってくれ………。これが、隊長の意志なんだ………」
 ジュピターはそう言い聞かせるのがやっとだった。セーラーサンの視線を避けるように顔を背け、俯いた。
「………だけど、それだと、(あいつ)との約束が果たせない………」
 ポツリとカロンは言った。ジュピターの体が、弾かれたようにビクンと撥ねた。セーラーサンの左腕を掴んでいた力が緩んだ。
「ごめんなさい、ジュピター(まことさん)!」
 ジュピターの力が緩んだ隙を、セーラーサンは逃さなかった。腕を振り解いて大きくジャンプする。近くで閃光が煌めいた。
「もなかぁ!!」
 誰かの声が聞こえた。続いて襲ってきたのは、衝撃だった。
 セーラーサンの小さな体が吹き飛ばされた。

 山の中腹辺りで爆音が響いたのと、ノアの「方舟」の主砲により〈ヴィルジニテ〉が沈んだのは、ほぼ同時刻だった。〈ヴィルジニテ〉が地面に激突した衝撃を感じた直後に、山の中腹付近から大音響が響いた。
「〈ヴィルジニテ〉を沈めたの!?」
 セーラームーンはやるせない気持ちになった。飛空艇ヴィルジニテ、即ちセーラーヴィルジニテは、セーラーノアの姉妹だ。その姉妹を倒さなければならなかったセーラーノアの心境を思うと、胸が痛んだ。
「サラディアを倒してくれたか」
「ああ、そう願いたいな」
 噴煙を上げている〈ヴィルジニテ〉を見つめながら、ヴィクトールとジェラールは密かに会話をした。サラディアの戦闘能力を知っているだけに、直接戦うことはできるだけ避けたかったと言うのが、ふたりの本音だった。
「山の方の爆発が気になるわね」
 ヴィーナスは言いながら、クンツァイトに同意を求めた。
「〈ヴィルジニテ〉が沈んだのなら、もうこそこそ隠れて移動する必要もないしな。一気に中腹まで飛ぶか?」
 クンツァイトは肯いた。
「うん。マーズ(レイちゃん)ジュピター(まこちゃん)がいる可能性が高いものね」
「セーラームーンがそう言うのなら、決まりだな。ん?」
 上空を見上げたクンツァイトが、不意に眉根を寄せた。
「どうしたの? クンツァイト(タッくん)
「何か人影のようなものが、中腹の方に向かったように見えた」
「敵?」
「分からん。一瞬だったしな」
 クンツァイトは口をへの字に曲げた。クンツァイトの見た人影はプロキオンだったのだが、彼がその人影の正体を知ることは、ついになかった。
「とにかく急ごう」
「セーラームーン。我々はあなたたちのように飛ぶことができない。すまないが先に行ってくれ。すぐに追い付く」
 ジェラールとヴィクトールは飛行能力を持っていないのだ。
「分かったわ。中腹で合流しましょう」
 セーラームーン、ヴィーナス、クンツァイトの三人は、ジェラールとヴィクトールを残して、爆発を確認した中腹に向かって宙を飛んだ。

 プロキオンはもなかの姿を捜していた。
 荒れ地の方では噴煙が上がっていた。一隻の飛空艇が墜落している。確か、十三人衆のサラディアが使用していた〈ヴィルジニテ〉だ。船体が、真ん中から真っ二つに割れてしまっている。もう使い物にならないだろう。
 荒れ地の奥には山脈が見える。その左側の密林が、先程一戦交えた場所だ。
「あのまま前進したとすると、今はあの辺りか………」
 山の中腹辺りに目を向けた。わざわざ密林を歩いて進んでいたところから見ると、彼女たちは極力敵に発見されないように注意して進んでいるのだろうと推測した。だとすると、上空から発見される危険性がある荒れ地に抜けるより、そのまま山を越えるルートを選ぶに違いない。プロキオンはそう考えていた。
「ん?」
 山脈へ向かって移動を開始するとすぐに、爆煙が上がっているのを発見した。渓谷を挟んで、両側で戦闘が行われている。
「もなかはどっちだ?」
 宙に留まってもなかの姿を捜していると、大音響が響き渡った。渓谷に掛けられていた吊り橋の片方のたもとが爆発し、吊り橋そのものが崩れていくのが見えた。
「思い切ったことをしやがる………」
 向かって右側。吊り橋のたもとが爆破された方には、自衛隊の面々が見える。機甲兵団の大軍団と、絶望的な戦いを繰り広げている。セーラー戦士の姿はひとりも見えない。
「こっちは駄目だな。全滅する」
 あと数分で、自衛隊は全滅するだろうと思えた。左側に目を向けた。こちらは戦闘が既に終結している。殆どのセーラー戦士がこちら側にいるようだ。
「いた………」
 その中にセーラーサンの姿を見付けた。ちょうどポニーテールのセーラー戦士の腕を振り解いて、ジャンプしたところだった。
「なに!?」
 プロキオンはその視界の隅に、陽の光を反射して、キラリと光る何かを発見した。
「マズイ!」
 プロキオンは弾丸のように突進した。
「もなかぁ!!」
 飛び上がったセーラーサンの背中に体当たりした。

 チャンスだ!
 サンザヴォワールはほくそ笑んだ。岩陰で息を殺し、ずっと待っていた甲斐があった。ひとりのセーラー戦士が、無防備に跳躍してくれた。敵が潜んでいるなどとは、微塵も考えていない行動だ。
「馬鹿め! 絶好の的だ」
 サンザヴォワールは大型のガトリングガンを構えた。照準もろくに合わせずに、跳躍したセーラー戦士に向かってトリガーを絞った。
 小気味よい震動と共に、無数の弾丸が連続して放たれた。

「なに!? 銃声!?」
 ジェダイトは慌てて周囲に視線を走らせる。機銃を掃射している音だ。しかも、近い。誰かが狙われたのは確かだ。
「もなかぁ!!」
 誰かの叫ぶ声に、ハッとなって顔を上げた。跳躍したセーラーサンがいるはずの場所に、視線を向けた。
 セーラーサンの後方から猛加速で突っ込んできた人影に、彼女が弾き飛ばされる姿が見えた。
「敵だと!?」
 ジェダイトは素早く状況を判断した。
「敵が残っていた!?」
 他のメンバーも、ジェダイトに僅かに遅れて事態を察知した。
「そこかぁ!!」
 銃弾が飛んできた方向から、ギャラクシアは敵の位置を読み取っていた。
「ちっ! しくじった!!」
 発見されたサンザヴォワールは、バーニアを吹かして上昇した。多勢に無勢だ。奇襲に失敗したのなら、退却するしかない。しかし、それを許すギャラクシアではなかった。
「逃がすと思うのかい!?」
「ちっ!」
 ギャラクシアの放ったギャラクティカ・クランチを宙で躱し、サンザヴォワールは斜面に着地した。無重力帯なら問題はないが、地球上では地面に脚部を付けていた方が素早く動ける。重力下では姿勢制御バーニアの効果は激減してしまうのだ。
「一対一なら、俺の方に分がある!」
 脚部には、地上での移動をスムーズにするための強力なホバリング装置がある。先のジェラールの騎士団との先頭においても、この機能が機甲兵団の圧倒的優位をもたらした。
「その程度の動きで、あたしに勝てると思っているのか!?」
 だがギャラクシアは慌てない。斜面を滑るように移動するサンザヴォワールを目で追う。
「ギャラクティカ・クランチ!」
 わざと狙いを外す。これは囮だ。
「俺のスピードに着いて来れないようだな!」
 ホバリング移動を繰り返しながら、サンザヴォワールはガトリングガンを構えた。
「間抜けが。ギャラクティカ・マグナム!!」
「なっ!?」
 ギャラクシアはギャラクティカ・クランチを外して、わざと隙を作ってみせたのだ。そうすることによって相手を誘導し、ガトリングガンを構えさせる。その瞬間には、当然相手も隙を見せる。そのタイミングをギャラクシアは待っていたのだ。
 放たれた凄まじいエネルギー弾は、一瞬にしてサンザヴォワールの体を消滅させた。

 血塗れで横たわるプロキオンの横に、セーラーサンは茫然と立ち尽くしていた。事態が全く理解できていない。ただひとつ確かなことは、このプロキオンが絶体絶命の自分を救ってくれたということだけだった。
「なんで………?」
 セーラーサンは問い掛ける。ここに何故プロキオンがいるのか、そして何故彼が自分を助けたのか、その理由が分からずに困惑していた。
「どうしてよ!?」
 痛々しいプロキオンの姿を茫然と見下ろしながら、セーラーサンはもう一度問い掛けてみた。
 プロキオンはひどくギクシャクとした動作で、セーラーサンに血の気の全くない顔を向けてきた。
「回りをもっと、注意して見ろよ………」
 掠れた声で、プロキオンはそう言った。だがそれは、セーラーサンが聞きたかった答えとは違うものだ。
 サンザヴォワールを倒したギャラクシアが戻ってきた。敵を倒したことを、ジャピターとマーズに目で知らせた。
「なんで、あんたがここにいるの? セーラーヴァルカンのところに、みんなで行ったんじゃないの?」
 そのセーラーサンの言葉に、プロキオンは自嘲気味に小さく笑った。
「その、つもり、だったんだが、な………」
 言葉が途切れ途切れになる。喘ぐように口はパクパクと動くのだが、上手く言葉が出てこないようだ。プロキオンにトドメを刺そうとしたギャラクシアを、ジェダイトが制した。もう少し、セーラーサンと話をさせてやれ、目はそう語っていた。
 ギャラクシアは小さく息を吐くと、警戒のためにその場から離れていった。まだ敵が周囲に潜んでいるかもしれない。安全を期するために、自分の「目」で周囲を確認するつもりなのだ。そのギャラクシアに、ジュピターが付き合った。
 マーズとカロンはそんなふたりの姿をチラリと見たあと、プロキオンに視線を戻した。彼の体は、自らの血で真っ赤に染まっていた。彼の体から流れ出た血が、地面に染みを作る。普通の人間なら、即死の重傷だった。
「なんで、帰ってきたのよ………」
 帰って来なければ、あたしを庇って撃たれることはなかったのに。そう言葉を続けようとしたが、掠れてしまって声にならなかった。プロキオンはセーラーサンの顔を見上げると、小さな笑みを浮かべた。
「これ、を、渡しに、来た………」
 震える右手をセーラーサンに差し出してきた。その掌には、三センチほどのガラスの破片のようなものが載せられていた。
「アポロンのやつが、死んだ時に、残ったものだ。結晶の、ようなものが砕けた。これは、その破片、だ」
 苦しげな息の中、プロキオンは説明する。
ギャラクシア(なびき)、来て」
 マーズがギャラクシアを呼ぶ。何となく想像ができるのだが、確信がない。だから、ギャラクシアに見てもらいたかったのだ。
「ああ。スター・シードの欠片だな」
 ギャラクシアは覗き込むと、お前の予想は当たっているという風に、マーズに顔を戻して肯いた。
「時間は掛かるかもしれないが、この欠片があれば、アポロンを復活させることができるかもしれない」
「そ、そうなの、か? よかったな、もなか」
 プロキオンは安堵したような笑みを浮かべた。
「あんた、これを渡すために帰ってきたの?」
「ア、アポロンのやつ、は、最後の最後まで、お、お前の身を案じて、いた。必死に、お前のところに、か、帰ろうとした………」
 虚空を見つめ、プロキオンは独り言のように言う。
「なんであいつが、そ、そこまでして戻ろうとしたのか、その時、は、分からなかった。だけど、あいつに成り代わって、お前の側にいて、あ、あの時の、あいつの気持ちが、分かったような、気が、した………」
 プロキオンは言葉を切り、ゴクリと唾を飲み込んだ。セーラーサンの顔を、じっと見つめる。
「お前はさ、頼りなさすぎるんだよ。だ、誰かが側で見ててやらねぇと、危なっかしいんだ。ははは………。俺も、お前の側に、い、いすぎたようだ………。お陰で、このザマだ」
「プロキオン………」
「み、短い間だったが、お前と一緒に、過ごした日々は、けっこう、た、楽しかったぜ………。もなか、どんなことが、あっても、くじけるんじゃ、ないぞ。いい、女になれ、よ………」
 それがプロキオンの最後の言葉だった。覚醒した力を使えば、プロキオンを助けられたかもしれない。しかし、セーラーサンには、何故かそれができなかった。
「プロキオン………。あんたも、あたしにとっては、アポロンだよ」
 セーラーサンはここで初めて、大粒の涙を流した。プロキオンは憎むべき、アポロンの仇のはずだった。しかし、今は、その死を悼み、涙していた。自分を庇ってくれたからではない。そんな単純な理由ではなかった。涙が溢れ出てくる理由を、セーラーサン自身も説明ができない。
「あれ? どうしてかな? 何で涙が出てくるの? アポロンの仇なのに、あたし、何でこいつのために泣いてるんだろう………」
 セーラーサンは溢れる涙を、両手で拭う。マーズも、ジュピターも、ギャラクシアもジェダイトも、そんなセーラーサンの姿を黙って見つめることしかできなかった。彼女の涙の答えは、自分自身で導き出すしかない。
「………ごめんなさい、みんな。あたし、日暮のおじさんたちを助けに行く」
 ややあって、セーラーサンはおもむろに口を開いた。視線はプロキオンの亡骸を見つめている。さぞかし、無念であったろう。だが、その顔はとても穏やかだった。彼は自分の死を納得したのだと感じた。それが本望であったとは思わない。しかし、少なくとも、彼は自分の中で納得して死ねたのだ。だから、安らいだ顔をしているのだと思えた。そのプロキオンの亡骸に誓うように、セーラーサンはもう一度言った。
「あたし、行きます」
 顔を上げ、谷の向こう側に顔を向けた。
「あの顔で夢枕に立たれるのは気持ち悪いしね」
 ひとつ吐息を吐いたあと、カロンは言った。
「あたしが助けてやるんだ。文句は言わせない」
 ギャラクシアはセーラーサンに目を向けると、ニヤリと笑った。
「………だ、そうだ。お前たちはどうする?」
 セーラーサンの側に立ち、ジェダイトはマーズとジュピターを見た。彼も日暮たちを救いに行くつもりのようだ。
 マーズとジュピターは顔を見合わせると、諦めたように笑った。
「化けて出られるよりは、恨まれた方がマシか………」
「あたしは別に、化けて出られても怖くないんだけど」
「『悪霊退散!』ってか?」
 ジュピターもマーズも、引き返すことを決めたようだ。

「機甲兵団!!」
 敵はすぐに発見できた。敵のその部隊を発見した瞬間、ヴィーナスの眉が跳ね上がった。因縁深い相手だ。前回の借りを返さなければならない。
「え!? みんなは!?」
 セーラームーンも別の意味で表情を変える。
「戦っているのは、自衛隊の人たち!? みんなはどこ!?」
 セーラー戦士たちの姿が、誰ひとりとして見つからない。だから、セーラームーンは僅かに動揺した。機甲兵団と戦っているのは、自衛隊の面々だけである。共に行動していると思われたセーラーサンたちの姿が見えない。
「無茶苦茶だ! 通常兵器が通用する相手じゃない。全滅するぞ!」
 クンツァイトの懸念通り、激しい攻撃を受けて、自衛隊の面々が為す術なく次々と倒れていく姿が見えた。このままでは本当に全滅してしまう。
「敵を頼むわ! あたしはみんなを回復する!!」
 言うが早いか、セーラームーンはヒーリング・エスカレーションを放っていた。癒しの光が、瀕死の自衛隊員たちに上空から降り注がれた。

 セーラーサンたちが引き返して来た時は、全てが終わっていた。
セーラームーン(おねぇ)!?」
 セーラーサンは目を真ん丸にして驚いたが、驚いたのはもちろん彼女ばかりではない。
「う〜〜〜。確か日本を発つ時は、三条院さんとゾノが一緒だった気がするんだけど、なんでヴィーナス(みな)とクンツァイトを連れてるのさ?」
「話すととっても長くなるから、また今度ね」
 頭を抱えて悩むジュピターに、セーラームーンはうなじの辺りを掻きながら答えた。実際、かなりの大冒険をしてここまで来たので、一口には説明できるものではない。
「それにヴィーナス(みな)のコスが変化してるし」
「いろいろあったのよ。お陰でパワーアップできたんだけど。主人公の特権っやつ?」
ヴィーナス(みなP)。主人公はあたし」
 何か勘違いをしているらしいヴィーナスに、セーラームーンはジト目を向けた。もちろん、ヴィーナスは笑って誤魔化す。
「ところで、“ラピュタ”に連れてこられちゃったのは、これで全員?」
「ううん、他にはサターン(ほたる)アース(みさお)がいるわ。ふたりは今、十番病院を守ってくれているの」
 そのセーラームーンの質問に答えたのは、マーズだった。
「そうなんだ。オペラ座仮面(ひょうどうさん)は?」
「あ、あいつは………」
 ジュピターは言葉を濁した。言いにくそうに、唇を噛む。
「あたしを庇って、死んじゃった」
 ひどく明るい声で、カロンが答えた。サバサバしたような笑みをセーラームーンに向けた。
「死ん、だ………?」
 あまりにもカロンが明るく言ったので、セーラームーンは言葉の意味を理解するのに、たっぷり一分掛かってしまった。困惑した表情で、ジュピター、マーズ、セーラーサン、ギャラクシア、ジェダイト、そして日暮の顔を見る。
「本当、なの?」
 ジュピターとマーズは顔を背け、セーラーサンは俯いた。日暮は唇を噛んでいる。ギャラクシアとジェダイトのふたりだけは、真っ直ぐにセーラームーンを見つめていた。
「あたしとジェダイト(D・J)が合流する少し前だった。あたしたちが到着した時は、カロンが亡骸を抱いていた」
「………ディールが死んだのか?」
 ジェラールとヴィクトールがようやく追い付いてきた。どうやら、今の会話が聞こえたらしい。
「誰だい?」
「元ブラッディ・クルセイダースだ。いろいろあって、今は仲間だ」
 ジェダイトが顎でふたりを示すと、すぐさまクンツァイトが答えた。

 その後、それぞれ簡単にここまでの経緯を説明し合った。今後行動を共にするためには、ある程度この場に至る経緯を知っておく必要があったからだ。
 兵藤に引き続き、陽子やアポロンの件を聞いたセーラームーンは、沈痛な表情になった。
「そっか。だから、セーラーサン(もなか)の雰囲気が少し違ったんだ」
 セーラームーンはセーラーサンを頼もしげに見た。セーラーサンは、僅かに照れたような顔をした。
「さぁさぁ、シケた顔してないで、そろそろ行こう!」
 両手をパンパンと叩いて、カロンがその場の雰囲気に渇を入れた。
「あたしの方は心配ないよ。兵藤 瞬の魂は、ここにいるから」
 ポンとお腹を叩いてみせた。
カロン(かれんさん)、もしかして………」
 驚いたような顔を向けてきたマーズに、カロンは柔らかい微笑を返すのだった。