ちびうさ絵日記
             十番小学校の幽霊       




 月が奇麗な晩だった。
 まばらに雲が見える程度だった。
 月のひかりに照らされて、何やら三つの影が蠢いている。
 影はさほど大きくない。
 小学校の校庭を、その三つの影が走り抜けた。
 校舎の中に忍び込もうとするその影たちは、ドロボウにしては風変わりだった。
 大人にしては、背が低すぎた。まるで、幼い子供のように………。
 三つの影のうちのひとつが、豪快にコケた。
 ふたつの影が、そのコケた影に近寄る。
「ドォジ!」
 いかにも、にくったらしそうな口調で、影のひとつが言った。
 男の声だ。しかも、子供の………。
「九助! あんたは、どうして、そういうふうにしか言えないの!? ………大丈夫!?ちびうさちゃん………」
 女の子の声をした影が、倒れている影を助け起こした。
「うん、大丈夫。ありがとう、ももちゃん」
 影が立ち上がった。
 ピンク色の髪をおだんごにしている、ちっちゃな女の子────ちびうさだ。
 ということは、九助と呼ばれた男の子は、クラスメートの更科九助。ももちゃんと呼ばれた女の子は、中華料理屋の桃原桃子ということになる。
 こんな夜中に、小学校でいったい何をしているのだろうか。
「おいてっちゃうぞ!」
 九助は言いながら、歩き出してしまった。
「あん。まってよぉ」
「いじわるぅ」
 ちびうさとももちゃんのふたりは、口々に九助を罵りながら後を追った。

 校舎の中は、ひんやりとしていて、そのうえ不気味なくらい、静かだった。
 三人は手に手に懐中電灯を持ち、寄り添うように固まって歩いていた。
「九助ぇ、もう、帰ろうようぉ」
 ももちゃんが、心細そうに言った。
「ったく………! だから、来なくていいって言ったんだ………!」
 九助は舌打ちしながら言った。
 ももちゃんは、今にも泣き出しそうだった。
 なおも文句を言おうとする九助の右足に、蹴りを入れてから、ちびうさが言った。
「大丈夫だよ。あたしが、守ってあげる」
「本当は、自分も怖いくせに………」
 そう毒づく九助の右足に、ちびうさは再び蹴りを入れた。
「いってぇなぁ、ちくしょう………」
 足をさすりながら顔をあげた九助が、固まったように動かなくなった。
 不思議に思ったちびうさとももちゃんも、九助の視線の方に目を向けた。
「………!」
 一瞬固まった三人だったが、次の瞬間、
「ぎぃぃぃやぁぁぁ………!」
 この世のものとは思えないような叫び声をあげ、一目散に学校から逃げ出した。

 次の日は第二土曜日だった関係で、学校は休みだった。
 いつもは早起きなちびうさが、珍しく九時頃起きて一階に降りると、これまた休みの日にしては、珍しく早起きしたうさぎが、黙々と朝食をとっていた。
「育子ママは………?」
「買い物」
 まだ眠い目を擦りながら、ちびうさが訊くと、うさぎは短く答えた。
「アンタ、夕べどこ行ってたの………? コソコソと出てったと思ったら、血相変えて戻ってきたりして………」
 うさぎは口一杯に、朝食のパンを頬張りながら言う。
「肝試しに小学校へでも行ったの………?」
 ちびうさは、どきりとした。
 うさぎにしては珍しく、全て的を得ていた。
「ど、どうして分かったの!?」
「え!? ほんとに小学校に行ったの!?」
 びっくりしたのは、うさぎの方だった。冗談のつまりで言ったのだが、それが見事に的中してしまったのだ。
「うさぎ、何か知ってるの?」
 ちびうさは訊いてみた。うさぎが何か知っていそうだったからだ。
 うさぎの話では、十番小学校は、うさぎのいた時代から、幽霊が出ると評判になっていたらしかった。去年は弟の進吾が肝試しに行き、幽霊とご対面して、血相変えて逃げ帰ってきたらしい。
「ね、進吾」
 廊下を歩いていた進吾を見つけ、うさぎは言った。
「やめてくれよ。思い出したくもない………」
 進吾にしては珍しく、姉に対して弱気な口調だった。

 レイから電話かかかってきたのは、その日の夕方だった。
 ちょうど亜美が、ちびうさの勉強を見に来てくれている時間だった。
 火川神社にすぐ来い。
 と、言う内容の電話だった。
 レイは一方的にしゃべると、さっさと電話を切ってしまった。
 だから、呼ばれた理由は、全く分からなかった。ただ、そのときのレイの口調から察するに、何か面倒臭いことに巻き込まれそうな、嫌な予感はしていた。
 うさぎは、ちびうさと亜美とともに、火川神社へ向かった。亜美は別に、レイのご指名があったわけではなく、ちびうさが行こうと誘っただけのことだった。
 そういったとき、例え自分の用事があったとしても、断り切れなくなってしまうのが、亜美という女の子だった。

 火川神社には、更科九助と姉の更科ことのも来ていた。
 ことのはレイが通う、T・A女学院の高等部に在籍していた。
 以前学園際で、ことのが部長を務める、超常現象研究部の出し物に、協力したこともあって、親しくなった先輩である。
「どうしたのよ、急に呼び出したりして………!」
 レイの姿を見つけるなり、うさぎが文句を言った。
 文句を言うなら来なければいいのにと、思うちびうさだったが、それでも来てしまうのが、うさぎという女の子だった。
「あなたが、ちびうさちゃん? そして、こちらが従姉の月野うさぎさんね」
 ことのはふたりを、代わる代わる見比べて言った。
「よく、似てらっしゃるわねぇ。従姉っていうより、親子みたい………」
 うさぎは、心臓が飛び出るかと思った。いや、驚いたのは、うさぎだけではない。更科姉弟以外のものは、皆、寿命が縮まる思いだった。
「や、やだなぁ、ことのさん。そんなこと、あるわけないじゃないですか………」
「そ、そうよねぇ………」
 その場は、何とか笑ってごまかせた。
 それにしても、ことのはなかなか鋭いことを言う。超常現象研究部の部長という肩書きは、やはり伊達じゃない。
「ところでレイちゃん。何の用なのよ。あたし、忙しいんだからね」
 うさぎは再び文句を言った。
 何が忙しいんだか、と、ちびうさは思ったが、ここで突っ込むと話がややこしくなると思ったので、口には出さなかった。こういった面では、ちびうさはうさぎより大人だった。
「ちびうさちゃん、夕べ、小学校へ行ったんですって………?」
 いつもならうさぎに対し、文句を言い返すレイだったが、今日のレイは違っていた。何か、神妙な顔をして、ちびうさに目を向けた。
 当然、無視されたうさぎが怒っているが、気にしないようにした。
 ちびうさもうさぎを無視して、軽く頷いてから答えた。
「うん。九助とももちゃんも一緒だったよ。ね、九助」
 ちびうさは、九助に同意を求めた。
 その間、うさぎはまだ文句を言っていたが、亜美に怒られてしまったので、黙って聞くことにした。
 九助は、何か遠慮がちに頷いた。
 その九助を押し退けるようにして、ことのがちびうさに詰め寄る。
「幽霊、見たんですって………!?」
 そう言って見つめることのの瞳は、キラキラと輝いていた。
 ちびうさは、何この人、という風に、レイを見た。
 レイはため息をつくと、
「ことの部長、今晩行こうっていうのよ………」
 と言って、うさぎを見た。
「行こうって、小学校に………?」
 うさぎが言うと、レイは呆れ顔で頷いてみせた。
 嫌な予感がする………。
「大勢で行けば、怖くなんかないですわよ。いざとなれば、火野さんにお払いしてもらえばいいし………」
 ことのは、もうすっかりその気だった。隣にいる九助が、頭を抱えている。
「やめた方がいいですよ! 夜は暗いから危ないし………。明日、昼間に行きましょうよ」
「何をおっしゃるの、月野さん。昼間じゃ、幽霊さんが、出てこないじゃないの」
 うさぎはことのに迫力負けしてしまった。ちらりとレイを見る。レイは、こりゃ駄目だ、という風に、首を軽く横に振った。
 レイもきっと、ことのに迫力負けして、いやいやながらに承知したのだろうと感じた。
「うさぎ、ひょっとしてアンタ、コ・ワ・イいんじゃない………」
 ちびうさの鋭い指摘に、うさぎは笑ってごまかした。
「や、やーねぇ。こ、怖いわけないじゃない」
 ちびうさにそう言われてしまうと、うさぎの性格上断るわけにはいかなくなる。
 うさぎも渋々承諾する。ちびうさの作戦に、まんまと引っかかってしまったわけである。
 うさぎのすぐ後ろにいた亜美が、クスクスと声を殺して笑っている。
「じゃ、決まりですわね。我が超常研のために、がんばってくださいね」
 ことのは、ひとりで張り切っていた。
「しょうがないわねぇ………。じゃあ、みんなで食事して、それからいきましょう」
 ため息混じりにレイが言うと、今までずっと黙って話を聞いていた亜美が、
「え!? ひょっとして、わたしも行くの………!?」
 と、今更ながらに驚いてみせた。
 亜美は自分は行かなくていいのだと、思っていたらしい。
「あたりまえじゃない」
 レイはさらりと言った。
 断ろうか、どうしようかと、悩んでいる亜美の横で、ちびうさが言った。
「もちろん、亜美ちゃんも行ってくれるよね」
 ちびうさの瞳は、亜美に対する期待で、キラキラと輝いていた。
 亜美は再び、断る機会を逸してしまった。

 夜もすっかり更けた十一時頃、彼女たちは十番小学校へ出発した。
 正門で、衛が待っていた。
 ちびうさが、こっそり連絡していたのだ。
 千人の味方を得て、がぜん元気になったうさぎが、先頭にたって歩く。
 相変わらず気乗りしない亜美が、最後尾を歩いていく。
 校舎に入ると、今度はちびうさが先頭にたった。
 九助は、目をキラキラさせながら歩いていく、姉の後ろで、ビクビクしながら付いてくる。
 レイがリックサックを抱え直した。
「レイちゃん、何持ってきたの………?」
 うさぎが訊いた。
「巫女さんの服と、お払い道具一式………」
 レイは答えた。
「最初から、着てくればよかったのに………」
 うさぎが突っ込む。レイはTシャツにジーンズという、軽い服装だった。
「あんなの着てたら、逃げるときにコケちゃうじゃない………!」
 レイはつい、本音を口走ってしまった。
 全員の冷たい視線が、レイに注がれる。レイは、笑ってごまかす。
「おい、ちびうさとことのさんがいないぞ………」
 まわりを見渡しながら、衛が言った。ふたりの姿が見えない。
「あの馬鹿………」
 うさぎは拳をプルプルさせながら言った。
「仕方ない、二手に分かれて捜そう」
 衛の提案で、二手に分かれることにはなったが、だれもが衛とは離れたくはなかった。
 亜美などはちゃっかり、衛の後ろで小さくなっていた。
 すったもんだのすえ、結局は、うさぎと衛、レイと亜美とおまけの九助という、順当なところに決まった。

 ちびうさとことののふたりは、校舎の三階あたりを歩いていた。既に仲間たちとはぐれて、二十分はたっただろうか。
「ち、ちびうさちゃん。ふたりっていうのは、やっぱり心細いわねぇ………」
 そう言うことのの声は、震えていた。
「アハ、アハ、アハハ………」
 ちびうさは、笑うしかなかった。怖いのは、ちびうさも同じだった。
 怖いから衛を呼んだのに、はぐれてしまっては、意味がなかった。
(どうしよう………)
 ちびうさも急に心細くなった。
 そんなふたりの目の前を、白いものが、横切っていった。
「>>>」
 ことのが泡を噴いて倒れた。
 ちびうさは文字通り、脱兎の如く逃げ出していた。

「!」
「ちびうさ………!」
 うさぎと衛は、別棟の一階で、ちびうさたちの悲鳴を聞いた。
「こっちだ………!」
 衛はうさぎの手を引っ張って、走り出した。

 レイ、亜美、九助の三人は、先ほどの校舎の二階にいた。
「姉きの悲鳴だ!」
 九助が断定した。ちびうさの声も、混じっていたようだった。
 ふたりの身に、何かが起こったのだ。
「妖気を感じるわ………」
 レイは冷静だった。
 上の階を見上げる。
「行くのよね、やっぱり………」
 亜美は今回は、役に立ちそうになかった。
 生暖かい風が、どこからともなく、吹き込んできた。
「………え!?」
 三人は同時に、何かを感じて振り向いた。
「>>>>>」
 九助が一目散に逃げ出す。
 亜美はなかば腰を抜かして、這うようにしてドタバタと逃げる。
 あまりにも唐突すぎたので、思わずレイも逃げてしまった。
 逃げてしまってから、レイは腰を抜かした亜美を、置いてきてしまったことに気付いた。
「やっぱり、この格好がいけないのよね………」
 始めから、逃げやすい服装で来たことは、やはり失敗だと思った。
 レイは近くの教室へ入ると、巫女服に着替えることにした。

「うえぇぇぇん。まもちゃぁん………」
 泣きべそをかきながら、うさぎは歩いていた。
 手を繋いでいたはずなのに、いつのまにか、はぐれてしまったのだ。
「まこちゃんと美奈子ちゃんは、いいわよねぇ………」
 うさぎはふたりのことを思い出した。
 まことは連休を利用した、園芸部のハイキングへでかけてしまい、美奈子はやはり、連休を利用した家族旅行に行っていた。アルテミスも行くというので、ルナとダイアナもちゃっかり便乗していた。
「あたしってば、何でこんなとこにいるのかしら………」
 そう思うと、なんだか情けなくなってきた。
 ふと、前方に、何かがあることに気づいた。
「い!?」
 ぎょっとしたが、正体をつきとめようと、瞳を凝らしてみた。
 得体のしれないものは、廊下に蹲っているように見えた。
 自分の足下を照らしている懐中電灯を、得体のしれないものに向けてみる。
 泡を噴いて倒れている、ことのだった。
「ことのさん、しっかりして………!」
 うさぎは駆け寄って、ことのの肩を揺すった。
 駄目だ。白目を剥いている………。
「ことのさん、ゴメン………」
 うさぎは両手を合わせて、先に謝っておくと、ことのを見捨てて歩き出そうとした。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
 突然階下で悲鳴がした。
「レイちゃんの声だ………」
 レイが悲鳴をあげるほどの、幽霊が出たのか。
 うさぎは、悲鳴が聞こえた方に走った。
 当然、ことののことは、忘れていた。

 亜美は身動きが取れないでいた。
 懐中電灯を持っていない彼女は、この真っ暗な廊下では右も左も分からない。
 さっき、衛を呼ぶうさぎの声が聞こえたのだが、どこから聞こえたのかも判断がつかない状態だった。
 うさぎの声が、半ば泣きべそをかいているような感じだったので、衛とはぐれてしまったのだろうと推測した。こんな状況下であっても、しかっり状況把握に努めてしまうのは、自分の悲しい性なのだろうと、変に感心してしまった。
「どうしよう………」
 だが、亜美にしては、珍しく弱気になっていた。
 近くに人の気配はない。誰かが見つけてくれるまで、ここでじっとしているというのも、少し怖かった。
 突然悲鳴が聞こえた。この廊下の先だ。
 悲鳴がしたということは、そこに人がいるということである。
 亜美はとりあえず、悲鳴の聞こえてきた方向に走った。

 衛は懐中電灯を手に、ひとりで歩いていた。
 仲間が、だれひとりとして見つからない。
 とある教室の前を通りかかったとき、衛は教室の中で、何かが動いたような気がして、その教室の前に立ち止まった。
 ひとつ、深呼吸をした。
 ガラリとドアを開け、懐中電灯を照らす。
 いた。
 純白の下着姿の幽霊………?
 その幽霊と視線が合った。
 時間が止まった。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
 悲鳴で衛は我に返った。
 その悲鳴を聞きつけた、うさぎと亜美が走ってくる。
「ま、まもちゃん………。まさか………」
 拳をプルプル震わせて、うさぎは言った。
 下着姿のまま、悲鳴をあげるレイ。その、そばにいた衛。
 言い訳は、通らない状況だった。
「レイちゃんにな・に・をしたの………?」
 うさぎは問いつめる。
「い、いや、うさ、落ち着いて、話し合おう………」
 衛はジリジリと後退する。
 レイの着替えを、衛がたまたま、覗いてしまっただけなのだろうと、亜美は思ったが、今のうさぎに何を言っても無駄だろう、とも思っていた。
「ちょ、ちょっとぉ、早く出てってよ………!」
 レイがヒステリックに怒鳴った。
 三人は、慌てて廊下に飛び出した。

 ちびうさは、体育館の裏に来ていた。
 仲間とはぐれてもなおかつ、ひとりで探検しようと考えるのが、ちびうさだった。
 好奇心旺盛で片付けてしまうには、ちょっと無謀すぎるところもあった。
「ほ・ほ・ほ・ほ・ほ・…………」
 女性の声で、笑い声がした。
「い、今のは………!?」
 まわりを見てみたが、人の姿はない。
「ほ・ほ・ほ・ほ・ほ・………」
 笑い声だけが、不気味に響いている。
「出たわね、姿を見せなさい!」
 啖呵を切ってみたのはいいが、やっぱりちょっと怖かった。
「ほ・ほ・ほ・ほ・ほ・…………」
 声は次第に近くなってきた。
 突然、目の前が白くなった。
 “それ”が、姿を現した。
 ちびうさは悲鳴をあげなかった。
 唇をかみ締めて、“それ”を睨つけた。
「ムーン・プリズム・パワー! めいく・あっぷ!!」
 変身のかけ声がぎこちないのは、まだ、慣れていないせいだった。
 ちびうさは、セーラーちびムーンに変身する。
「愛と正義のセーラー服美少女戦士−見習い−セーラーちびムーン! 未来の月に変わって、お・し・お・き・よ!!」
 精一杯、格好つけたつもりだったが、幽霊が真面目に聞いているとは、思えなかった。
「ほ・ほ・ほ・ほ・ほ・…………」
 相変わらず、笑い声しかしない。
「ちょっとぉ、ちゃんと聞いてるの!?」
 ちびムーンの気持ちも分からないではないが、幽霊に、何を言っても無駄だと思う。
「怒ったわよぉ………!」
 ちびムーンは、ピンク・ムーン・ロッドを構えた。
「ピンク・シュガー・ハート・アタックゥ!!」
「ほ・ほ・ほ・ほ・ほ・…………」
 幽霊さんには、全く効き目がなかった。
「ありゃりゃ………!?」
 必殺技を封じられた(?)ちびムーンは、旗色が悪い。
 勝手に転んで膝を擦りむいて、ピンチになってしまった。
 幽霊が反撃してきた。
 ちびムーンを取り込もうというのか。
「悪霊退散!!」
 お決まりのかけ声とともに、巫女姿のレイが御札を投げる。その後ろに、うさぎと衛、そして亜美の姿が見える。
 レイの法力で、幽霊はあっさりと退散した。
「幽霊の出る、原因はこれね………」
 レイは何かを見つけたようだった。
 見ると、小さな墓がひとつあった。壊されている。
「体育館を建てた時かしら………」
 亜美が覗き込んだ。
 今では、何の墓だったのかも分からない。そうとう、昔に作られたものらしかった。
 レイが供養してくれた。
「もう、出ないと思うわ………」
 原因がこれならばと、付け加えて、レイは言った。
「はぁ………。こわかったぁ………」
 事がすんだとたん、ちびムーンは腰を抜かしてしまった。

 東の空に、太陽が登り始めた。
「残念でしたわ………」
 気を失ってしまって、幽霊の写真を採り損ねたことのが、ひどく残念がった。
「また今度、くればいいですわ………」
 そう言うことのは、レイが幽霊の供養をしたことを知らない。
 孤軍奮闘したちびうさは、衛の背中で眠っていた。
 うさぎも大あくびをする。
 亜美がふと、立ち止まった。
「どうしたの………?」
 レイが尋ねる。
「何か、忘れているような、気がするんだけど………」
 亜美は、右手を頬に当てて考えてみた。
 なんだっけ………?
 何か足りない。
 そう、ひとり足りない。
 一同が、九助を忘れてきてしまったことに気が付いたのは、牛丼屋で朝定食を食べた後のことだった。





あとがき


 原作でも「ちびうさ絵日記」はコメディっぽく作られてたんで、小説も同じノリにしました。もっとドタバタ喜劇にしようかと
ったんですが、結局この程度に落ち着きました。ちょうどいいアニメGIFがあったんで、使ってみました。