『大好き』


セーラーヴィーナスが私に告げた
「さよなら」
と……

私は悟った
愛野美奈子は――私は死ぬんだ
と……

私は目を覚ました
私は死ぬんだ
私は泣いた
思いっきり泣いた
死にたくない
と……

アルテミスが目を覚ました
私の声が聞こえたから
愛野美奈子はアルテミスに言いました
「おはよう」
と……

アルテミスに悟られないように
私が死ぬ
と……

思いっきり泣いたら
愛野美奈子はすっきりしました
好きなことしようと決めました

せっかく
セーラーヴィーナスである私が
愛野美奈子である私に
公然と時間をくれたんだから

愛野美奈子は
病院に行くフリをして
観覧車に乗りに行きました

私は思う
愛野美奈子の最期の“ドッキリ”になっちゃうな
それもタチの悪い
と……

パーティーの日に
私が死ぬなんて
ブラックユーモアもいいところ

高いところからの眺めって
ホントいい景色……
世界が見渡せる
私の生きた世界が見渡せるって
思える
来てよかった

でも
景色いいところだと
遺書書く筆もはかどるって
目論見で来たなんて
悪趣味もいいところ

現実は
筆がろくに握れないだなんて 

レイ……
やっぱり改めて呼ぶと面映いな
マーズ……
仲間のなかで一番口にした名前……
一番喧嘩した
あなたと一緒のとき
私は
意地っ張りで
イタズラ好きな
愛野美奈子になれたから
もっとケンカしたいなあ

まこと……
あなたは身をもって教えてくれた
私の姿
愛野美奈子の死を一番怖がっていた私
歌と仲間と離れることに怯えていた私
だから
前世にかこつけて
目を背けていたことを
教えてくれた

亜美……
私が一番謝りたいのはあなた
あなたが魔道に堕ちたとき
私はあなたを殺そうとした
あなたが帰って来てくれなかったら
愛野美奈子は
楽しんで歌うことを
仲間のために歌うことを
できなくなっていたはず

プリンセス……うさぎ……
運命が決まっているのなら
私は前世のとおり
ヴィーナスとして最期まで戦ったはず
ブラックユーモアだけど
私がここで死ぬのは
愛野美奈子として生きたってことだ
と……

そう思うことにしたの
そうでなきゃ……やってられないから……

だからね
運命は変えられる
プリンセス……うさぎ……
どうか星の運命を変えて
みんなも

ああ
書きたいことがいっぱいあるのに
もう時間がないみたい
やりたいこともいっぱいあるのに
もっといっぱい生きていたいのに

そう思える世界に
生まれて来てよかった
愛野美奈子として
生きてよかった
この世界を

愛野美奈子が大好きだ
と……
私自身が思える世界が
大好きだから

愛野美奈子として生きることができたから
前世も
受けとめることができる
歌とみんなに会えたから
つらいことばっかりじゃなかった
と……

齋藤社長……
最期まで
自分勝手な
愛野美奈子でごめんなさい

アルテミスも……
最期まで
自分勝手な
愛野美奈子でごめんなさい

もう観覧車が地上に着いたみたい
もう時間なくなっちゃったな

あれ
アルテミス
どうしているの
どうして泣いているの
どうして私がここにいるってわかったの

あなたは
やっぱり最高のパートナー
私が
もう泣くこともできなくなったから
代わりに泣いてくれるんだね
私の時間
もうなくなっちゃったの

だから
私の想い届けてね

さよなら
アルテミス
大好きだよ