Rainy




 あめあめ ふれふれ かあさんが
 じゃのめでおむかえ うれしいな
 ぴちぴち ちゃぷちゃぷ らんらんらん

 娘であるちびうさが足元でくるくると傘を回しながら、ひとことひとこと確かめるように歌っている。
 今日はあいにくの雨。空はどんよりしている。
 昔。自分はこの歌があまり好きではなかった。母がいなかったからかもしれない。迎えにくるのは母ではなく伯母だった。
 どうも歌詞を聞くたび、幸せな人間が自分にあてつけているような気がしてならなかった。『僕はおかあさんが、優しいおかあさんが迎えにきてくれるんだ。いいだろう』全くあてつけだ。
「ねえ、パパ。パパはこの歌よく歌った?」
 小さくて大きな瞳を自分に向けて、ちびうさが聞いた。どう答えるべきかしばらく思案する。
「あまり歌わなかったよ」
「どうして?」
「おかあさんはむかえにこなかったからね」
 ふうん。ちびうさは深く考えることはしなかったようだ。すぐにこんなことを言った。
「そうか。今日はパパが迎えに来てくれたんだからこう歌わなくちゃいけないんだ」

 あめあめ ふれふれ とうさんが
 じゃのめでおむかえ うれしいな
 ぴちぴち ちゃぷちゃぷ らんらんらん

 そしてにっこりと笑うと、
「ね。これでおかしくないでしょう?」
といった。
 少し驚いたが、なんだかうれしくなった。
「今日はそれでおかしくない」
 と言うと、ちびうさはうれしそうに「そうでしょう」と笑ってみせる。
 そしてもう一度歌う。

あめあめ ふれふれ とうさんが
じゃのめでおむかえ うれしいな
ぴちぴち ちゃぷちゃぷ らんらんらん

 玄関先でうさぎが手を振っている。それをちびうさが目ざとく見つける。
「ママ!」
 ちびうさは雨の中を駆け出していった。