2000年のとある休日


 2000年のとある日曜日、みんなはうさぎの就職先である横浜八景島シーパラダイスに来ていた。
「うさぎはシロイルカのトレーナーだったわよね?」(火球)
「ええ、そうよ。うさぎちゃんはシロイルカのトレーナーよ」(美奈子)
 火球の問いに、美奈子が答えた。
「ところでうさぎは、しっかり仕事しているのかしら」(レイ)
「ちびうさちゃんの情報によると、しっかりやっているみたいよ」(亜美)
「衛さんがダイアナとスモール・レディを連れて見に行ったら、随分とかっこよくやっていたんですって」(みちる)

「へー、そうなんだ。どんな風にかっこいいのか、早く見てみたいね」(明日香)
 明日香はみちるの言った「かっこいい」と言う言葉に対し、興味があるような口調で言った。
「ところで、私たちが見るのは、午後のショーなんでしょ?」(美紀)
「そうだな。午前中は随分と園内で遊んだからな」(はるか)
「ねぇ、それよりあと10分でショーが始まるよ。早く行こ!」(ほたる)
「そうですね、行きましょうか」(せつな)
 みんなが話しているとほたるが口を挟み、せつなを引っ張りながら言った。
 そして、全員がショーの会場に来て5分後。待ちに待ったショーが始まった。
 ショーが始まってすぐ、めぐみは水色の作業服と白い長靴を履いているうさぎの姿を発見した。
「みんな、うさぎを見付けたわ」(めぐみ)
「ほんとだ。自分の番が来るまで、司会をやるみたいだな」(アルテミス)
 美奈子の肩に乗っているアルテミスは、うさぎを見付けただけではなく、彼女が手にマイクを持っているのに気付いた。
「アルテミス。あんた随分と目が良いのね。いったい、視力いくつあるのよ」(ルナ)
「2.0くらいはあるかな」(アルテミス)
「あたしは、1.0くらいしかないわよ」(ルナ)
「はいはい。そこで視力の良い悪いのけんかをしない」(まこと)
 まことは自分の方に乗っているルナと、美奈子の肩に乗っているアルテミスのけんかを止めた。
 そして、ショーが終わるまでの40分間、うさぎは頑張っていた。イルカのショーの時には輪投げの輪を小さい子供に投げさせたり、シロイルカのショーの時にはとてもかっこよくやっており、「水を掛ける」という合図の時には、前から4−5列目に座っていたみなにはまともに水を被ることはなかったが、水飛沫だけは被ってしまった。
 ショーが終わると、みんなはうさぎに会いに行った。閉園後に一緒に帰る約束をするためだ。うさぎの計らいで、特別に数分間シロイルカと触れ合うことができた。

「ねぇ………どうだった? 私の働きぶり」(うさぎ)
 うさぎは帰りの電車の中で、みんなに訊いた。
「しっかりやっていて、よかったわよ」(美紀)
「そお? 良かった」(うさぎ)
 美紀に誉められたうさぎは、素直に喜んだ。
「それにしても随分と働いてたわね。大変じゃない?」(みちる)
「ミュージカル女優になっている僕よりは楽だろ?」(はるか)
「うん………。合図で動作を教える作業は大変だったけど、他の仕事は慣れると楽だよ」(うさぎ)
「ふーん、そうなんだ。でも、仕事に慣れると楽しいものがあるよね」(明日香)
「あら? 『仕事なんて嫌い。楽しくない』って言っていた人が、そんなことを言うなんてね」(めぐみ)
「女性の姿で暮らすようになってから、少しずつだけど仕事が楽しくなってきたの!!」(明日香)
 明日香は嫌味的な口調で言っためぐみに対し、反抗的な口調で言った。
「ところで、妹3人衆は元気?」(まこと)
「元気、元気。爆発的元気よ」(美紀)
 まことが去年会った美紀たちの妹のことを訊いたら、凄い元気でいるとの返事が返ってきた。
「確か………今は13歳になっているんだよね? 久しぶりに会ってみたいよね」(美奈子)
「再来週のゴールデンウィークの時に連れてきましょうか?」(火球)
「私その4日間お休み取ってあるから、連れてきてもらおうかな。いろんな楽しいところ案内するからっ
、キンモク星に還ったら伝えといて」(うさぎ)

「分かったわ。還ったら妹たちに伝えておくわ」(めぐみ)

 そして時が過ぎていき、ゴールデンウィークがやってきた。当初の約束通り、美紀たちの妹が地球に遊びに来ていた。
「お招きいただいてありがとうございます」(由香)
由香は丁寧な言葉遣いで、皆に挨拶をした。そんなところは、姉のめぐみにそっくりだった。
「久しぶりね胡桃ちゃん、美由紀ちゃん、由香ちゃん」(亜美)
「お久しぶりです。ところで、はるかさんの姿が見えませんけど………」(胡桃)
「はるかは明日始まるミュージカルのファン感謝イベントのリハーサルをしているのよ」(みちる)
「そうなんですか………。会えなくて残念です」(美由紀)
 美由紀ははるかに会えなくて寂しいのか、落胆したような口調で言った。
「5月6日の最終日の回を見に行きますから、舞台で活躍しているはるかに会えますよ」(せつな)
「え!? わたしたちも見に行けるんですか!?」(美由紀)
「もちろんですよ」(せつな)
「やったー!」(妹三人)
 ミュージカルのファン感謝イベントを見に行くことができると知った三人は、大はしゃぎだった。
その日の翌日の5月4日は、うさぎたちは胡桃たちを連れて、ディズニーランドへ遊びに行った。
 次の日の5月5日。今度は渋谷へショッピングへ出掛けた。しかし残念ながら、美紀・明日香・めぐみの3人は、奇しくも渋谷のスペイン坂スタジオでラジオの生番組に出演しなければならなかったため、妹たちショッピングを楽しむことはできなかった。ラジオの生番組は公開放送だったので、うさぎの計らいでこっそりと姉たちの仕事ぶりを見ることができた妹3人衆は、大満足だった。
 ショッピングの途中、通称「やまんば」と呼ばれる顔黒・白髪の女の子の姿に、胡桃たちはびっくりして、麻布に帰るまでうさぎたちの手を放さず、ずっと握ったままだった。

 そしてついに、5月6日がやってきた。池袋のサンシャイン劇場で、はるかの出演するセーラームーンミュージカル・ファン感謝イベントを見に行く日である。
 偶然にもその日の朝、未来からちびうさが遊びに来た。当然の如く、ちびうさと妹3人衆は、すぐに仲良くなった。
 ファン感謝イベントを見に行ったその夜、明日キンモク星に還ることになっている胡桃たちは、はるかの家に泊まった。
 最初は4日の日に行ったディズニーランドの話で盛り上がり、次ぎに渋谷へショッピングに行った話で盛り上がった。胡桃、美由紀、由香の3人が渋谷にいた顔黒・白髪の女の子たちに恐怖したと言ったら、美紀たちは爆笑したいのを堪え、「くすくす」と遠慮がちに笑った。
 しばらくすると、今日見に行ったファン感謝イベントの話で盛り上がり始めた。
「どうだった? ファン感謝イベントは?」(はるか)
「面白かったよ。ダンスや歌が、いろんな意味で凄かった。2階席だったけど、クリアに見ることができたし………」(ちびうさ)
「でも、なんかあたしの役をやってる栗山絵美ちゃんて、はるかさんより大きくなかった?」(まこと)
「はるかより、2pほど高いのよ。身長は176pなんですって」(みちる)
「随分と高いわね………」(火球)
 火球は初めてまこと役の栗山絵美さんの身長を聞いたとき、溜め息を付くような感じで言った。
「あとさー。今回のちびうさ役の伊澤有梨須ちゃん、小さくて可愛かったよね。しかも、113pぐらいしかなくてさ。はるかさんは、初めて有梨須ちゃんを見たときどう思ったの?」(うさぎ)
「初めて見たとき? 『ちっちゃいスモール・レディだなぁ』って思ったよ。それに有梨須と話すときは、体を低くしなきゃいけないから少し大変だけどね」(はるか)
「そうだったんですか………。あと、亜美役の伊澤麻璃也ちゃんて、有梨須ちゃんのお姉さんなんですってね。姉妹で出演するのって珍しいですよね」(せつな)
「そうだよね。あと、デュエットコーナーで飛び入り参加の宮沢あき子さんとキスしたけど、あれって考えてやったことなんだよね?」(明日香)
「当たり前じゃんそんなこと」(はるか)
「そう………。遊びじゃなくて良かったわ」(みちる)
 みちるは少し怖い口調で言った。
 ミュージカルの話は更に盛り上がり、夜遅くまで話していた。

 そして次の日、3人を代表して胡桃が、
「夏休みにはまた来ますね」
 と言って、キンモク星に還っていった。
 もちろん、道を間違えないように美紀たちが一緒に付いていったのは、言うまでもない。


注意書きその1
ファン感謝イベントの様子は、ビデオを見て書きました。
注意書きその2
ライツが女性で過ごすようになってからの名前と妹の名前です。
星野 光→星野美紀(姉)  星野胡桃(妹)
大気 光→大気めぐみ(姉) 大気由香(妹)
夜天 光→夜天明日香(姉) 夜天美由紀(妹)