〜おひさまとひまわり〜
「おだんごって、おひさまだよな」
「へ?」
星野のひざを枕にうとうととしていたうさぎは、自分に言われた言葉が今ひとつ理解できず、そのままの体勢で視線だけを星野に向けた。
大きな瞳で見つめられ、いささか困ってしまうのと同時に、うさぎが自分だけを見ているという事に星野は優越感を得る。
「んで、俺はひまわり、だな」
(……………なんで?)
ますます意味が分からないうさぎ。普段なら、飛び起きて詰め寄っている所なのだが、今の体勢が心地よくてよほど気に入っているらしく、そのままで尋ねた。
「星野はひまわりで、あたしはおひさまなの?」
「そ♪」
「…………………よくわかんないんだけど」
「そっか? そのままの通りだぜ?」
う〜ん、と頭を悩ませるうさぎの様子がむしょうにかわいくて、星野の口元は独りでに緩まる。
現在はお昼休み。春の日差しが降りそそぐ中、前庭で仲良く(←はたから見ればイチャイチャ)昼食を取り終えると、大きなあくびを連発していたうさぎのために、急きょお昼ねタイムを設けることにした。
うとうとと眠りかけているうさぎを起こすつもりはなかったのだが、ポツリと出た言葉はどうやら独り言にしては大きかったらしく、冒頭のような状況になったのだった。
「…なんで星野はひまわりなの?」
眠気が増してきたせいもあるのか、どうやらうさぎは考える事を断念したらしく星野を見上げた。
星野の答えを聞くまでは、と今にも閉じそうな瞳と必死に戦ううさぎに苦笑し、星野は仕方ねえなあと自分の頭をかいた。
もともと独り言になるはずだった事。うさぎがその意味を独りで察するならともかく、自分からは教えまいと思っていたのだが、唯一の弱点である少女に勝てるはずはなかった。
「それはほら、俺ってばいい男だからさ♪ 明るいし、かっこいいし、元気だし、優しいし、頼りになるし。そんなすばらしい所が、ひまわりみたいだろ?」
「…………自分で言う? そーゆーこと」
冗談なのか本気なのか、とにかく自信満々に言い切る星野にうさぎは呆れたような笑みを返す。
その笑顔に笑顔を返しながらも、本当の意味に気づかれないかと内心ハラハラしていた。が、とりあえずうさぎはこの答えに納得してくれたようである。
何とか乗り切ったな、とホッと息をつくと、まだこちらを見つめていたうさぎと目があった。
するとうさぎはふわりと微笑んで、それから眠る事にしたのか、目を閉じた。
うさぎの笑顔の理由が分からず、(な、なんなんだ?) 今度は星野が?マークを浮かべる番だ。
「……何? おだんご」
「………う〜ん、よく考えたらさ、星野がひまわりだっていうのはあってるのかなって思って」
「お♪ 俺がいい男だってこと認めんの?」
からかうような口調になったのはわざとだった。そうすれば、うさぎがむきになってつっかかってくると思ったからだ。それはもはやいつもの事なのだが、今は照れくさかったせいもある。
─────しかし、うさぎから返ってきた言葉は、星野がまったく予期していないものであった。
「それもあるけど、そうじゃなくて、─────────あたし、ひまわり大好きなんだよねvv」
(………………………………………………………………………………な///////////)
星野は絶句した。
いつものプレイボーイな星野はどこに行ってしまったのか、うさぎの言葉に顔を真っ赤に染めていた。
いつも通りの、優しくてちょっと甘いうさぎの声が頭の中をぐるぐると回る。
『あたし、ひまわり大好きなんだよねvv』
(それってつまり、俺=ひまわりなんだから、ひまわりが大好きってことは、つまり。それって)
「つまり、……………俺のこと──────────────────」
珍しく愛の言葉が頂戴できるのかと、心臓バクバクでうさぎをのぞきこむと、
(…………って、寝たのかよ………(涙))
我が愛しの君からは規則正しい寝息が聞こえてきたのだった。
なんとなく拍子抜けしてしまった星野はなんだか少し悔しくて、うさぎの髪をいじり始める。
きれいな。そう、空に輝く月のような優しい金色の髪はさらさらしていていい香りがする。
すやすやと眠るうさぎの顔は子供のように無防備で、天使のように愛らしい。
「…………ほんとは、な。何で俺がひまわりで、おだんごがおひさまかっていうと、さ」
誰に聞かせるという訳でもないが、なぜか星野は話し出す。
「ひまわりって、いつもおひさまを見てるだろ。…明るく輝いて、全てのものを照らしてくれるおひさまに憧れてるみたいな気がしてさ。似てるって思ったんだ。…いつもひまわりはおひさまを探してるから」
明るいおひさまは、どんな時でもみんなを元気にしてくれる。
優しいおひさまは、いつだって微笑んでくれる。
側に居て、勇気をくれる。一緒に泣いてくれる。抱きしめて受け入れてくれる。
そんなおひさまだから、みんなおひさまが大切で、ひまわりもおひさまを見つめてる。
星野夜は、穏やかな、そしてとても愛しいものに触れているといった笑顔で、
「簡単にいえば、ひまわりはおひさまが大好きだってことが俺と似てるんだけどなvvv」
手につかんでいるうさぎの柔らかい髪にそっとキスを落とした。
俺の大好きなおひさまは、ドジで泣き虫で妙な所で強気になったりする。
でもそんな所も好きだなあって思う。
俺には思った事を素直に言ってくるし、誰も知らない顔を見せたりする。
そんな時、(いや、いつもなんだけど)すごく感じる。─────幸せだなって。
だって、多少なりとも俺に気を許してくれてるんだなって思うから。
「……………ひまわりはおひさまが大好きです。…………おひさまはひまわりを好きですか?」
そんな星野の優しい問いに、眠っているはずのうさぎがうなづいたように見えたのは気のせいだったのか。それとも気のせいではなかったのか。
真実はおひさまだけが知っていた。 Fin